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群馬工業高等専門学校特任教授 小島 昭(桐生市本町)

【略歴】 群馬大工学部卒。社会問題となっているアスベストの無害化技術研究に携わっているほか、炭素繊維を使った水質浄化と藻場形成にも取り組んでいる。

中国の水と緑の回復

◎群馬の技術結集したい

 先月初め、中国の上海、蘇州、大湖の水環境を調査してきた。水の都、東洋のベニスとも呼ばれる古都・蘇州にはたくさんの水路、運河があるが、そこに漂う水は透明感なし。水路の底にたまる泥は真っ黒、重油状、鼻をつまむ悪臭。水質分析を実施してみれば、化学的酸素消費量が一三ミリグラム/リットル以上、アンモニアが一〇ミリグラム/リットル以上ではるかに多く、これにはびっくりした。日本の河川や湖沼では、アンモニアが検出されることはまずない。世界遺産の蘇州ではあるが、その中を流れる水の品格を考えると寒気がした。

 その後、大湖に向かった。琵琶湖の四倍の広さで、対岸はもや、かすみの中。何度目をこすっても見えない。一年中この状態とのこと。原因は、大気汚染と黄砂だという。

 大湖の水は、不透明な青白色で、深刻な水質汚染が発生していた。湖の水は、周辺に生活する何百万人もの人たちの水源であり、農業、工業を支えている命の水である。かつては無限に思われたが、今は見るからに有限になった。

 大湖から上海まで、黄砂の舞う一直線の高速道路を走った。窓から景色を眺めていたが、何か落ち着かない。美しさを感じない。周辺の色は、薄茶色、土色、灰色。なぜだろうと思いながら、漠然と風景を眺めていて、突然、思いついた。大きな堂々とした木がない。森がない。なぜだろう。上海近辺は気候温暖の地である。樹木が成長しないことはない。木を切り倒しても、再び生えてくるはずだ。それでもない。

 中国の方に尋ねると、答えはこうだった。「大きな木は植えないのです。五十年後に大きな木になり、役に立つことは分かっているのですが、それを実行する気持ちにはなりません。土地は国から借りているのです。木を植えるスペースがあれば別の目的に使います」

 上海や蘇州の街中を歩くと、道路沿いに並木はあるが、樹木のある公園がない。森林が国土に占める割合も、日本は66・7%で世界トップクラスだが、中国は14%と極めて少ない。

 黄砂の発生も、森林の少なさに起因する。中国は地球儀を見ても広い面積を占めている。その巨大な国土に森林がない。紀元前には大木が生えていた。しかし、ある時期に人々が切り倒した。それから組織的な植林を行っていない。破壊された森は砂漠となり、そこに住む民族はその土地を離れた。黄河文明の発祥の地にこうして砂漠化が起き、黄河の水量も減った。

 緑の大地と、光り輝く水のあふれる中国の国土を取り戻したい。そのために群馬のパワーと科学技術を結集するぞ、と胸に刻みつつ上海空港を後にした。






(上毛新聞 2008年4月3日掲載)