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◎脳も工夫して使おう IC(集積回路)メモリーは、世界半導体生産二十兆円のざっと四分の一を占める巨大な産業である。このICメモリーは今から四十年ほど前に、米国のインテルが1キロビット(千個)のDRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)を製品化したことからスタートした。一九八〇年代に入ると当時、超LSI(高密度集積回路)と呼ばれた1メガビット(百万個)のメモリーが開発され、全世界の需要のほとんどを日本の半導体メーカーが独占するほど隆盛を極めた。 ところが、今世紀に入ると、1チップ1ギガビット(十億個)の領域まで先端技術は進歩したが、採算性が悪く、ビジネスリスクが大きいため、多くの日本メーカーは後退または撤退。世界の主導権は韓国のサムソンに握られている。日本では東芝やエルピーダメモリが巻き返しを図って健闘している。 ところで、ICメモリーは、その電気的特性から大きく二つに分けられる。電気を切るとその情報が失われる揮発性メモリーと、電気を切っても失われることのない不揮発性メモリーである。前者の代表がDRAMで、パソコンやOA機器などの主記憶装置として大量に使われている。フラッシュメモリーは後者の代表で携帯電話やデジカメ、ゲーム機、携帯音楽プレーヤーなどの本体または小型メモリーカードなどに使われ、需要が急激に拡大している。今やフロッピーやHDD(ハードディスク)に取って代わる勢いである。 ICメモリーは微小な電気量(電荷)を、微細加工されたシリコンチップの上に蓄える原理を利用している。放っておくと電気は少しずつ漏れる。これを補うためDRAMでは電荷を、常に補充(リフレッシュ)してやることで記憶情報を保つ。一方、フラッシュメモリーは電荷を閉じ込めて漏れないような特別な構造にしている。技術の進歩が微細化による高集積度と低消費電力を可能にし、需要が大きく広がった。 この二つのICメモリーのように、人の脳や記憶についても揮発性と不揮発性の二つの性質があるようだ。人はさまざまな刺激や情報を得て生活している。だが、記憶は失われる。一説によると、平均的な人の記憶は二十四時間で半減するそうである。つまり覚えたことの半分を翌日には忘れている。脳の記憶に関する限り、ザル頭という表現は当たっている。だが一方で、強烈に焼き付けられた記憶や幼児期の体験、あるいは体で覚えたことなどは、鮮明に覚えていて忘れることがない。 不要な情報は流し去り、大切な情報を残すザル頭の網目の機能がポイントである。有用な情報が大量に蓄積されると、チェーンのように有機的に相互結合され失われないばかりか、時間の経過により知識は熟成して発酵し、ヒラメキや創造という素晴らしい働きに結実する。これは人の脳だけに与えられた特権である。イヤな記憶やどうでもよい情報は早く忘れて前向きに生きる―。脳の働きも日ごろの工夫と生活習慣の賜物(たまもの)ではないかと思う。 (上毛新聞 2008年3月29日掲載) |