視点 オピニオン21
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eラーニングプロデューサー 古谷 千里(吉井町)

【略歴】 北海道函館市出身。IT利用の英語教育が専門。国立大教授、米国コンテンツ制作会社ディレクターを経て、現在、英語学習ソフト開発に携わる。早稲田大非常勤講師。

ネット社会の教育

◎偽り見抜く知恵と技を

 リポートは手書きじゃないとダメ、と主張する教師がいる。コンピューターを使えば、簡単に他人の情報をコピーできるからだ。しかし、この主張はネット時代には通用しない。リポート内の文章を検索すれば、盗んだものかどうかはすぐに調べられる。相手は親指一本でリポートを書く世代。彼らに手書きを要求すれば、書く意欲は失(う)せ、優れたアイデアもしぼんでしまう。偽装リポートを心配するあまり、もっと大事なことを忘れないようにしたいものだ。

 現在、大学などの高等教育機関では、キャンパスネットがほぼ100%普及している。すべての学生にネット利用の権利が与えられ、メール交換やウェブ検索が自由にできるようになっている。学生用のホームページが用意されている大学もある。以前は教官しか見られなかった学生のリポートがネット上にアップ(公開)され、他の学生が読むことも可能になった。友達のリポートを書き写しても、インチキは一瞬にしてばれる。情報公開は偽装を生むが、チェックを可能にするのもまた情報公開だ。

 だれもが情報をネット上に公開できるが、その技術は本来、監視のためのものではない。情報を公開し、知りたい人に知りたいことを教えてあげようという優しい発想から生まれたものだ。届いたリポートをネット上に公開すると、学生たちは友人たちのリポートを参考に、より優れたものを発表しようと努力する。大学の講座は十五回前後で終了するが、最終段階になるにつれて、リポートの質が上がってくる。そのスピードには目を見張るものがある。友達同士で学びあっているのだ。

 メール交換やネット検索などの受け身的な利用だけでは、インターネットを享受しているとはいえない。情報をアップして初めて、自分が世界の中の一人であることが実感できる。書籍のサイトにコメントを書いたり、オークションに出品したり、愛犬の写真をアップしたりすると、たちまちどこからともなく連絡が入ってくる。見ず知らずの人から共感の声が届いたときの感激は大きい。

 ただし、注意しなければならない点もある。ネット上では、偽名を使うことも、ウソの情報をアップすることも簡単だ。現実世界と同様に、ネット上には偽りと危険があふれている。ただ、この世界は誕生して日が浅く、どこに落とし穴があるのか、把握が難しい。英語学習の分野に限っても、間違いだらけのサイトが大量に公開されているのが実情だ。そこで、必要以上に不安と危惧(きぐ)の念を抱き、つい尻込みしてしまう。ネット世界で偽りを見抜く知恵と技を持つには、ネットに積極的に参加し、経験を積むことが欠かせない。

 ネット世界はいまや、実態のないバーチャル世界ではない。すでに十三億人以上の人たちが、この世界で研究やビジネスやコミュニケーションを行っている。日本の子どもたちが、この新世界でだまされることなく、善意の人々と手を組んでグローバルに生きていかれるように、勇気をもって、教育利用を推進しなければならないと思っている。






(上毛新聞 2008年3月18日掲載)