視点 オピニオン21
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県立ぐんま天文台観測普及研究員 浜根 寿彦(高山村中山)

【略歴】 東京都杉並区出身。1997年から県職員。県立ぐんま天文台の発足準備に携わり、99年の開館時から現職。彗星(すいせい)の観測的研究など惑星科学が専門。

宇宙からの視点

◎相対的に見る目養う

 宇宙を見ることは地球を見ることである。

 国外から日本を振り返ると、私たちが暮らすこの国の歴史や文化について理解が深まる。同じように、科学の目で宇宙から地球を振り返ると、地球について理解が深まる。両者に共通するのは、「比べるもの」があって理解が深まるという点である。

 太陽を巡る八個の惑星の中で、なぜ地球だけが地球になったのか。人間はどうしてここにいるのか。疑問の答えに迫るべく、地球そのものを調べる。と同時に、地球とは違う、しかしどこか似ている他の惑星と比べて、地球との共通点、相違点を見いだす。地球を惑星の一つとしてとらえる視点、つまり「ものごとを相対的に見る姿勢」が有用なのだ。

 惑星は太陽だけにあるのではない。星々にも続々と惑星が見つかっており、現時点で二百を超えている。このような「系外惑星」と比べると、地球の理解がさらに深まる。太陽を星々の一つとしてとらえたとき、地球は偶然の産物なのか、必然の産物なのか。宇宙を見ると地球、そして私たちが見えてくるのである。

 人類は惑星に探査機を送り込んで観測を行ってきた。この技術を地球に適用すると、気象観測や資源探査などに役立つ。以前は局地的な情報を組み合わせて推測するしかなかった地球全体の様子を、例えば雲の動きを、今では当たり前のように見ている。その結果、人類は「地球環境問題」を「発見」し、人類の課題として認識するようになった。「地球環境問題」は、宇宙からの視点の産物である。

 多様な視点から「ものごとを相対的に見る姿勢」は、科学者の世界での基本だが、日常生活でもさまざまな場面で有益であろう。ただ、このような姿勢は人と人との触れ合い(対話)を通してでなければ、なかなか得られない。

 このことと「地球環境問題」から、「県立ぐんま天文台」の専門職員に応募したころを思い出す。「県立天文台基本構想」には「子どもたちが環境問題を肌で感じられるような」「地球を知り、その地球に生きる自分たちのことを考える機会」を継続的に提供し「未来を創(つく)る新しい心を生み出す」天文台にするという理念が記されていた。「これからの人間の生き方や物事のあり方を科学的に考える機会」が得られるように、「知識偏重の教育から脱皮するために、“本物”の実体験を通して、一人一人の個性や能力を伸ばして」いくのだと。

 理念を実現して生き生きとした科学教育・普及活動を行うには、生々しい研究の世界に生きる“人”と、迫力と繊細さを併せ持つ本物の研究現場が必要である。

 私は群馬県が掲げた理念と実現への意気込みに共感し、新しい科学教育・普及の拠点づくりに参加したいと心躍らせた。運良く採用されて以来これまで、私なりに、理念に忠実に、力を尽くしてきたつもりである。

 宇宙の神秘に触れ、自然に親しみ豊かな心情を育(はぐく)みつつ科学的な目と判断力とを養い、宇宙から地球を見る目を得ることができる、県民に親しまれる天文台でありたいと思う。






(上毛新聞 2008年2月27日掲載)