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◎共通の関心失わせる 最近、インターネット上のサイトでニュースを読むことが増えた。大手新聞社や通信社のサイトであれば、かなり頻繁に更新されているので、いつでも最新のニュースが読めるし、見出しをクリックする形になっているので、興味のあるニュースを先に読むことができる。これがたとえばテレビのニュースだと、サッカーの試合の結果や明日の天気予報が気になっているとしても、最初に放映されるのは政治の話題であることが多く、少しの間我慢しなくてはならない。また、いつでもニュース番組を放送しているわけではないので、ニュースの時間まで待たなくてはならない。この点、インターネットのニュースサイトでは、知りたいと思ったときに必要な情報を得ることができる。新聞やテレビのニュースは見ないで、もっぱらインターネットだけでニュースを読んでいるという大学生も多い。 最近では個人的にあらかじめ表示される項目を選んでおくこと(カスタマイズ)もできるようになっている。たとえば、サッカーのニュースと天気予報だけ表示されるように、自分用のニュースページを登録しておくこともできる。インターネットの世界はこのようにますます便利な機能が増えていく。 しかし、こうした傾向は、社会にとっては思わぬ問題を引き起こす危険性があると、米国シカゴ大の憲法学者キャス・サンスティーンは著書『インターネットは民主主義の敵か』(邦訳は毎日新聞社、二〇〇三年)において警鐘を鳴らしている。このように人々が自分の興味にしたがってニュースを選択していくならば、それだけ人々が共有している情報は少なくなる。特定の話題だけがあらかじめ表示されるようになっていれば、なるほど本人にとっては便利なのだろうが、重要な政治的ニュースなどのいわゆる「固い」話題は触れられないままになってしまうかもしれない。もしこれが、テレビや新聞であれば、見るつもりのないニュースもわれわれの目に飛び込んでくる。扱いが大きいニュース映像や記事は、目に触れるチャンスがそれだけ大きい。 サンスティーンの著書が“民主主義の敵”という、いささかショッキングなタイトルになっているのは、関心の共有ということが、民主主義の根幹にかかわっているからである。民主主義とは、さまざまな政策課題について人々が話し合い、意見を交換し、集合的な決定に参加することといえる。共通の公共的な問題について、そもそも人々が知っているのでなければ、参加のしようがなくなるのである。 この意味で、人々の間に共通の関心をつくりだすことはマスメディアの重要な役割である。税の在り方、年金問題、地球温暖化問題など、公共的に重要と思われるさまざまな課題について、人々に知らしめる機能を、これまではマスメディアが果たしてきたのだし、これからもその重要性は変わらない。インターネットはますます重要な情報メディアになっていくであろうが、便利さの陰にこうした問題もあることは認識しておく必要があるのではないだろうか。 (上毛新聞 2008年2月10日掲載) |