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呑龍クリニック院長 福島 和昭(東京都新宿区)

【略歴】 前橋高、慶応大医学部卒。麻酔学を学び、米国留学などを経て群馬大医学部で助教授、防衛医大と母校で教授。2004年4月から太田市の呑龍クリニック院長。

風邪とインフルエンザ

◎予防に効くマスクと嗽

 立春が過ぎたが、寒さはいまだ厳しく、名物赤城おろしが吹き荒すさむと空気も乾燥し、風邪、インフルエンザが広まりやすい。今年はAソ連型ウイルスが流行しているが、ここ数年流行したことがないため、多くの子供たちには免疫がなく、大流行すると高齢者、乳幼児の死亡率は0・1%に達するといわれている。

 わが国では風邪の感染予防、症状軽減のため、習慣的にマスクと嗽(うがい)の励行がすすめられている。マスクについて述べると、使用目的によってサージカルマスク(衛生マスク)、フェースマスク、防塵(ぼうじん)マスクがある。ここでは風邪、インフルエンザの対応を考え、サージカルマスクについて述べる。

 国家検定規格N95のマスクが広く用いられているが、N95とは米国NIOSH規格のNシリーズの一種である。マスクの粒子物質の吸入防止規格上、0・075μm(マイクロミリ)の大きさの粒子の捕集効率95%以上で、インフルエンザウイルスA型の捕(除)集性能は99・99%以上といわれている。従ってN95のマスクはウイルスや細菌の体内侵入および空気感染を予防すると考えられる。

 マスクの性能の指標としてBFE(細菌濾過(ろか)効率)とPFE(微粒子濾過効率)があり、前者は細菌を含む粒子(平均4・0―5・0μm)を除去する割合(%)、後者は実験用の粒子(0・1μm)を除去する割合を示す。米国食品衛生局はサージカルマスクの基準をBFE45%以上と規定している。マスクは呼吸の時、ウイルスなどを含んだ分泌物の伝染予防とともに保温、保湿効果による喉(のど)の保護に有用である。

 風邪の咳(せき)によるウイルスの飛散速度は時速百キロ以上あり、患者一人が平均三人に感染を広げる可能性がある。マスクの使用は流行の防止に役立つので、咳をしている人にぜひマスクの着用をすすめたい。

 次は嗽についてである。その語源は「鵜飼(うか)い」であり、鵜に魚をのみ込ませ、それを吐き出させることに似ているので、嗽と呼ぶようになった。嗽による風邪の予防効果について、京都大学の川村孝教授のグループが二年ほど前、三百八十七人の被験者を対象に二カ月間、一日三回、水道水の嗽群と非嗽群に分けて調べた。その結果、水道水による嗽で風邪発生(羅患)率の40%減少を認め、有効性を検証した。その理由として、水の乱流はウイルスの感染を容易に導く作用のある口腔内プロテアーゼ酵素を洗い流すため、ウイルスの侵入を防ぎ、また水道水中の塩素が作用するためと説明している。

 ヨード液類による嗽は常在細菌を破壊し、ウイルスの侵入を助長し、また喉の正常細胞を侵害するので、効果は期待できないといわれている。昭和医大の島村忠勝教授は、緑茶が含有するカテキン(ポリフェノールの一種)が鼻や喉の粘膜細胞へのウイルスの付着を防ぐので、風邪、インフルエンザの場合に温湯の緑茶による嗽をすすめている。

 マスクと嗽は風邪、インフルエンザの感染予防、病状の緩和、流行の予防に有用と結論したい。






(上毛新聞 2008年2月7日掲載)