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群馬森林管理署署長 中岡  茂(前橋市岩神町4丁目)

【略歴】 東京教育大(現筑波大)農学部林学科卒。林野庁に入り、東北森林管理局計画部長、独立行政法人森林総合研究所研究管理科長を経て、2007年10月から現職。

秘策山村活性化

◎小中学生の宿泊義務化

 愚妻は、四国は高知、四万十川流域の山村の出身である。緑は豊か、水清く、空は明るい。しかし、高齢化が進み、老人だけの世帯や妻帯せぬまま高齢に達する男性も多く、跡継ぎのない家が増えていく。たまりかねた妻は、何とかならないかと私に言う。これまで多くの人が考えてきたことだから、妙案などあろうはずがない。どこにでもあるが、心やすまる風景を思い浮かべながら、ため息をついた。この地域での目撃を最後に絶滅したはずのニホンカワウソが復活すればなァ。そうだ、大陸からこっそり連れてくればいい。シマンちゃん(♀)、トーちゃん(♂)と名付ければ人気が出て見物客が集まるぞ。「あんた、自然を守るべき立場の人が何言ってんの!」「はい…」

 こうした状況を打開しようと各地でいろいろな工夫がなされているが、何せ国土面積の47%が山村とされているのだから、それ全体を活性化させるなどという芸当は簡単にできるものではない。しかも、どこの山村を見ても持ち合わせの資源といえば山林。まあ四十―五十年生に達する人工林でもあればいい方である。したがって、山村を産業で立てようとすれば、基本的には林業の振興を図るしかないが、今回はこの件には触れず、山村体験に絞って述べてみたい。

 山村体験というのは珍しい発想ではなく、以前から各地で廃校を利用したりして行われているが、いかにも散発的といった規模のものでしかない。今は、森林環境教育と称して、国有林でも学校等にフィールドを提供し、森林教室や山林作業のお手伝いをしている。しかし、全国に七百万人の小学生、三百六十万人の中学生がいることを思えば、無力感にさいなまれる。

 この際、学校教育の中で山村体験、もちろん農業体験、漁業体験も含めてもらって結構なのであるが、これらを義務化し、小学校と中学校で各一回、五日間ずつ山村に宿泊して、大自然の中での人間の営みを児童・生徒に学習させるような制度を設けたらどうだろう。これらの体験は、市街地での生活しか知らない児童・生徒に地球環境への理解を体得させるとともに、人間が本来持っている強靱(きょうじん)なサバイバルの精神を呼び起こさせるに違いない。また、多くの児童・生徒の中からは山村で働きたい、暮らしたいという者もでてくるだろう。

 これが実現すれば、山村の数は全国で千地区ぐらいとして、一つの地区に平日には五十人を超える小中学生が宿泊することになる。最近の市町村合併の結果、廃校となる小中学校もさらに増えていると思われるので、それらを宿泊施設等に利用し、専門の教員や補助員を配置する。あるいはホームステイもあるかもしれない。山村に相当の雇用と役務が発生することは疑いない。

 大法螺(おおぼら)というなかれ。日本の未来を担う児童・生徒の視野を広げ、あわせて山村の活性化にも役立つこのような制度は、やる気さえあれば「シマンちゃん、トーちゃん」よりよほど現実的である。






(上毛新聞 2008年2月1日掲載)