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◎心身に影響する色彩 筋肉は、見る色によって変化し、赤色は瞬発力を高め、青色は持続力を高めることがわかっている。身体の筋肉の緊張と弛緩(しかん)の度合いは、脳波や汗の分泌状況などから、客観的に数値化してみることができるのである。これを「ライト・トーナス値」という。それによれば、筋肉が最もリラックスするのはベージュ色などやわらかい中間色を見た時で、色の違いによる数値は、次の通りである。 *ベージュ色=二三 *青色=二四 *緑色=二八 *黄色=三○ *だいだい色=三五 *赤色=四二 数値の高い色になると、人間の筋肉は緊張してゆく。従って普段、ライト・トーナス値の高い色ばかりに囲まれているのはよくない。しかし、運動選手が競技をする前に赤色を見るのは、筋肉を緊張させ、瞬発力を高めるのに都合がよいのである。 日本の伝統的民家を色の面から見ると、ベージュ色が多く使われているのに気付く。例えば重厚な草ぶき屋根、土壁、ふすま、障子、天井の杉板、檜(ひのき)や杉の柱など、健康にとって理想的な色彩と材料が使われている。伝統的民家の部材である建具を挙げれば、木肌枠の障子は光を和らげて分散し、ガラスと違ってやわらかく均一な光を室内全体に分散させてくれる。 障子はまた、空気を通し、ろ過してくれるので、異物はシャットアウトする。だから障子を長くそのままにしておくと、黒ずんでくる。しかし、張り替えれば真新しくなり、気分も一新する。 また、室内を構成する柱や障子、土壁などは、温度・湿度の調整にも役立っている。特に土壁は、粘土の繋(つな)ぎ材とする稲わらが、湿度の高い時に湿気を吸い、湿度の低い時に湿気を放出する。また、温度が高くなると温度の上昇を抑え、室内が寒くなると温度を逃がさないようにする。 また、建築材料として古くから使用している杉や檜も、呼吸しているのであり、その色は肌色であり、筋肉を最も弛緩させる色でもある。 西洋建築のように、石やれんがを積んだ壁に、ケバケバしい色を塗った室内であったら、特に日本人の心は落ち着かないのである。 以上のように日本の伝統的民家は、ほぼベージュ色でまとまっている。そして使用材料である木材をはじめ、壁や障子、ふすまなども呼吸しているのである。だからこそ、伝統的日本住宅は住む人の心と肉体がリラックスし、ストレスの解消にも大いに役立っているのである。 現在は、プレハブ式住宅やマンションで暮らす人が多くなり、伝統的工法による新築住宅がめっきり少なくなってしまった。そして、室内外の着色にケバケバしい色彩が目立つようになってきた。このような住宅で育った子供たちが知らず知らずのうちに身体に悪影響を受け、その結果、簡単にキレて家庭内で暴力を振るったり、家庭外ではイジメの主役になったりするのではないかと思われるのである。 (上毛新聞 2008年1月29日掲載) |