視点 オピニオン21
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県読みきかせグループ連絡協議会顧問 小林 茂利(前橋市表町1丁目)

【略歴】 東京商科大(現一橋大)専門部卒。元県職員(商工労働部長で退職)。自宅で児童図書室を開設したことも。「ミズチの宝」で県文学賞受賞。2000年から現職。

魔法のことば

◎きき手を日常から離す

 ひところ寄席へよく行った。一九六○年代だから、まだ文楽、志ん生、円生などが元気なころである。もっとも誰が、どの寄席で、何をしゃべるかは、行ってみないとわからないし、こういう師匠の咄(はなし)がきけるのは、三回に一回くらいであった。

 木戸銭を払って入ると、まだ漫才や紙切りや音曲などをやっている。お目当ての真打ち登場は最後のトリだから、それまではゆっくり演芸を楽しむ。

 いよいよ真打ち登場となると、前座が出てきて舞台下手のメクリをめくる。その日、何をやるかは、他の演者の演目を見て決めるから、メクリには演者の名前が書いてあるだけで、演目は書いてない。前座はメクリを返すと座布団もひっくり返して引っこむ。すると下座の囃子(はやし)が鳴りはじめる。その曲目は演者ごとに決まっているから、メクリを見なくても誰が登場するか、わかる。

 やがて真打ちが登場して、深々と頭を下げ、「ようこそのお運びで厚く御礼申し上げます」と始まる。ここまでが真打ち登場の演出といえるが、話芸の達人といえる師匠でも、これだけの演出が必要なのである。

 ボランティアとして、よみきかせをしている人たちは、話芸の達人ではない。きき手も木戸銭を払って集まった人ではないし、会場も寄席のように閉じられた空間ではないことが多い。

 ことばという魔法のじゅうたんに乗せて、異次元の世界へ案内しようとするのだから、まず第一に、きき手を日常世界と切り離す工夫が必要である。拍子木、カスタネットなどを鳴らす。会場を少し暗くしてロウソクをつける。そんな工夫が考えられる。

 まずいのは、静かにして、立っている人はすわって、などと日常語で注意をして、きき手をいつまでも日常世界に引き止めておくことである。バリアーが破れないように、会場のカーテンを引き、ドアを閉めるなどのことも大切である。

 よみきかせや語りは、誰にでもできる。その際の注意点としては(1)よみ手が好きでたまらないテキストを選ぶ(2)下よみを十分やる。これはテキストのイメージを、しっかり頭の中に立ち上げるために必要(3)ゆっくりよみ、語る。気持ちがつながっていれば、どんなにゆっくり語っても間延びしたという感じはしないもの(4)はっきり語る。ことばでイメージを伝えるわけだから、明確にきき手に届かないといけない(5)心をこめてよむ。上手、下手よりも、心がこもっているかどうか、きき手は敏感に察知する(6)表情をつけてよむ。表情のないのを棒よみという。この表情はどこから出てくるかといえば、下よみでイメージを立ち上げているうちに、自然に出てくるものである。

 言論の府である国会はもちろん、私たちの人間関係も、ことばが左右することが多い。ことばは魔法の舟なのである。






(上毛新聞 2008年1月24日掲載)