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◎低温分解法で無害化 二○○五年六月二十八日、アスベストに突然、スポットライトがあたった。兵庫県尼崎市にある工場周辺の市民がアスベストが原因で亡くなられたことが報道されたからである。 アスベストを分解して無害にする。この考えをもったのは今から十年前、前橋市の自動車解体業のカースチールとフロン分解物の再資源化に取り組んでいたからである。フロンは、路盤材として再利用することが可能となった。しかし、社長の中嶋朗さんは、もっと価値ある用途はないかと強く訴えられた。この言葉を受け、悩みに悩んだ末、アスベストを分解できるかもしれないと思った。明確な理由はない。ヤマカンである。 実験室にある古い石綿付き金網からアスベストを剥(は)ぎ取り、るつぼに入れ、フロン分解物を加えて七○○度に熱した。炉から取りだすと、コチコチの塊ができた。ハンマーで叩たたき割った。アスベストの繊維は見えない。電子顕微鏡で見た。精密分析を行った。アスベストの存在は消えていた。 すぐに中嶋さんに電話。「すごいことを見つけました!」。学生とともにさらに詳細な検討を行い、論文を完成。○五年六月、学会で発表。会場は、静まりかえっていた。 発表の十日後、尼崎市の工場周辺で起きた事態が報じられ、アスベスト問題が全国の大きな話題となった。国会でも取り上げられた。アスベストを分解して無害にできないか。国民の願望が集中した。その時、無害化に取り組んでいたのは全国で唯一、群馬高専のみであった。日本中の耳目が群馬に集中した。 当時、環境省が定めていた規定は、一五○○度でアスベストを分解することであった。しかし、群馬高専で低温分解法が開発されたこともあり、温度条件を取り除き、無害化すれば低温でも実施可能とする法の改正を行った。 アスベストの分解研究に弾みがついた。同年八月末には塩化カルシウムを僅(わず)かしみこませ、八○○度に加熱する方法を発見し、特許を出願。十一月には取得した。 われわれが提案するアスベスト無害化の条件は、非繊維化、非石綿化である。アスベストは六○○度以上に加熱すると変質することから、単に熱すればよいとの考えもある。しかし、構造が変化し、非石綿化しても繊維形状を保持しており、無害化とはならない。フロン分解物や塩化カルシウムなどを加える群馬高専の方法では、加熱物を百六十万倍の超高倍率電子顕微鏡で観察したところ、アスベストは完全に非繊維化、非石綿化したことを確認した。 これらの研究結果を基に国の科学技術振興機構は、アスベストの無害化装置の開発を企業に委託。現在、急ピッチで装置の製作が行われている。 日本国内にあるアスベスト廃棄物は四千万トンと莫大(ばくだい)である。アスベストを無害にすることが定められたが、これを具体化する装置、分析方法、基準づくりはこれからである。国会から無害化に関して意見を求められ、資料を提出した。一日も早くアスベストの低温無害化技術を完成させ、安全で安心な環境を構築するべく、群馬高専の学生たちと奮戦中である。 (上毛新聞 2008年1月20日掲載) |