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群馬大社会情報学部准教授 伊藤 賢一(前橋市下小出町)

【略歴】 山形県出身。東京大卒、同大大学院修了。博士(社会学)。2001年から群馬大社会情報学部講師、03年から同助教授。専門は社会情報学、理論社会学、社会学史。

難しくなる社会調査

◎データは貴重な財産

 二〇〇四年から毎年十一月に、上毛新聞社と群馬大社会情報学部が共同で行っている県民世論調査に参加している。毎年多くの県民のみなさんにご協力いただき、ありがたいことである。この調査は今年も実施しており、すでに実際の調査は終了し、データを分析しているところである。結果は新年になってからの紙面で公表される。

 最近、社会学の研究者の間では「調査がやりにくくなった」という声をよく聞く。都市部での調査は比較的回収率が低く、地方では高い傾向がある、ということは以前より知られていたが、どうも最近はいままでとは様子が違うらしく、都市部でも郡部でも調査拒否が増加する傾向にあるらしい。

 直近の、〇五年の国勢調査では、調査拒否・調査票の回収不能が増えたため、総務省の有識者懇談会では個別に一軒一軒回るというこれまでの調査票配布・回収方法について再考する必要があるという報告書を出したことも記憶に新しい。

 調査環境がこのように悪化しているのは、共稼ぎの割合が増えたことやオートロック式のマンションが増えたことも影響しているが、おそらく、私たちの社会に不信感が充満していることも無視できないと思われる。

 あるいは、名前や住所といった「個人情報」を他人に知られることに対する警戒感といったらよいだろうか。〇五年に個人情報保護法が施行されてから、プライバシーや個人情報に関して人々は一層敏感になっているように思われる。

 悪質な訪問販売が増加していることも、こうした不信感・警戒感にいっそう拍車をかけている。

 われわれが行っている調査に関しては、対象者の住所と氏名は選挙人名簿を利用して調べたものである(学術調査の場合は利用が認められている)。また、返送されてきた調査票には個人を特定するような情報がないので、どなたが答えてくれたものであるかはわからない。データの内容は数値の形でコード化され、分析にかけられる段階では数字が羅列されてあるだけで、プライバシーがもれるような心配はない。この点はぜひともご理解いただきたいところである。

 それなりの手間や費用をかけ、多くのみなさんの協力のもとに得られた貴重なデータは、一部の研究者や営利企業のものではなく、まさに「社会の財産」というべきものだ。この情報は報道され、行政に反映されたり、間接的にだが法改正に反映されたりして、われわれの社会の役に立っているのである。

 もし、これをお読みになったみなさんの所に、信頼できる機関からの調査依頼がくることがあったら、ぜひご協力いただきたい。






(上毛新聞 2007年12月12日掲載)