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◎ネットで手作り感配信 私が演奏している電子オルガンは、コンピューターでできているハイテク君だ。音の誕生から電気によるデジタル技術で作られる電子楽器には「冷たい」というイメージを持っておられる方も多いだろう。ところが今、街を歩いていると聞こえてくる音の多くは電子音で、電車の発車合図や携帯電話のメロディー音の中には耳になじんでいるものも少なくない。以前、テレビ番組で「駅の発車音メロディーが電子音じゃなくてピアノの音だとホッとする」と発言しておられるゲストがいたが、ホッとするそのピアノに聞こえる音も、実はピアノに似た電子音だったりするのだ。 今、「電子音=冷たい」という先入観を超えて音の世界は広がりつつある。どんな楽器でも無神経にガンガン鳴らせば単なる騒音だし、ポロンと猫が鍵盤の上を走って出た音を演奏とはいわないだろう。演奏者がイメージをふくらませ、伝えたいメッセージを託して初めて音は演奏となる。ピアノも開発された当初は、それまで鍵盤楽器といえば繊細な音が特徴的なハープシコードという楽器しかなかったので、ピアノの音は大きすぎて騒々しいという批評もあったときく。要はそれをどう使うかなのだ。 ところで楽器の練習といえば、音の大きさや速さを自由自在にコントロールし正確に弾ける、ということが大きな目標だろう。ところが、その従来の目標だけなら、電子楽器はコンピューターのおかげで簡単にクリアできてしまう。自然の世界ではありえない「完璧(かんぺき)さ」が鍛錬しなくても手に入る点が電子楽器の特徴であり、それはそのままデジタル社会を映し出す。不確かさや偶然こそが、生物の進化や地球を育はぐくんできたことに気がつけば、「完璧」だけから感動は生まれないことを実感するようになる。そこで私は電子楽器を演奏するには「デジタル技術がもたらした完璧」を超えたところの「人間らしい不確実さ」が大切になってくると思う。 現在、最新のエレクトーンでは、インターネットにつなぐと演奏データが送られてきて、演奏者がそこにいるかのように楽器が鳴り出すという会員向けサービスが行われており、年内いっぱいは私の演奏が配信されている。曲想に応じた映像も同時に配信され、将来のネット社会に向けて、研究・試行が行われている最先端技術の一例であろう。 今回もプログラムを制作するにあたり、少々ミスタッチがあっても音楽的な表現ができていればデータを直さず、手作り感のある呼吸が感じられる演奏を目指した。そして映像にはわが県のきり絵作家、関口コオ氏の作品を使わせていただいている。楽器の液晶画面にインターネットで送られてくる叙情あふれる氏の作品と演奏のコラボレーションは、デジタル技術のおかげで地域や時間を超え、みなさんに楽しんでいただいているようである。 (上毛新聞 2007年11月28日掲載) |