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呑龍クリニック院長 福島 和昭(東京都新宿区)

【略歴】 前橋高、慶応大医学部卒。麻酔学を学び、米国留学などを経て群馬大医学部で助教授、防衛医大と母校で教授。2004年4月から太田市の呑龍クリニック院長。

サンマと生活習慣病

◎良質の脂が健康に有用

 サンマは松茸(まつたけ)や栗(くり)とともに秋の食卓を賑(にぎ)わす今が旬の大衆魚です。サンマがいかにわれわれの食生活と健康に有用か、あらためて見てみることにします。

 サンマ漁は八月ごろから北海道方面で始まり、親潮に乗って九、十月には三陸沖に達します。十月のサンマは脂が乗り、脂肪の量も体の20%くらいになります。脂の乗ったサンマは口先が黄色みを帯び、体も大きいです。丸ごと炭火で焼いて大根おろしで食べるのが美味(おい)しく、大根おろしはジアスターゼを含み脂っぽいサンマの消化を助けます。新鮮な内臓(肝)は甘味があり、栄養価も高いです。鮮度が落ちるとアミンを生じ、苦味が出ます。新鮮なものは生姜(しょうが)と一緒にお刺し身で食べるのも美味しいです。

 サンマは体長四〇センチくらい、銀色に輝く体形が刀を連想させるので“秋刀魚(さんま)”と大正時代からいわれていました。江戸時代は“三馬”という借り字もあり、夏目漱石の小説『吾輩は猫である』には主人公が下女の“三馬”を盗んだと記述があります。

 サンマは“薬の魚”ともいわれており、百ミリグラム中タンパク質25%、脂肪20%、無機質1・5%、糖質0・1%、ビタミン0・01%を含有しています。脂肪にはエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)を含み、これらが血流の改善、血管内皮細胞の安定、中性脂肪の抑制の働きをします。また、高血圧、動脈硬化のほか、脳細胞を活性化し脳の働きを良くして認知症にも有効という報告があります。

 生活習慣病やメタボリック症候群という言葉が最近はよく使われるようになりましたが、その源は内臓脂肪の蓄積、即(すなわ)ち肥満です。この基本的治療は規則正しい日常生活と毎日の食事にあると考えられます。生活習慣病は根底ですべてインスリン抵抗性が関与し、その主犯は食物中の脂肪です。肥満になりますと脂肪細胞から毒性であるアンギオテンシンノーゲン、アディポネクチン、アディポサイトカイン等が分泌され、これらの物質が高血症、高脂血症、高血糖、動脈硬化をもたらし、生活習慣病、メタボリック症候群となります。

 脂肪には動物性脂肪(豚・牛)と魚および植物に由来するものの二種類があり、前者は飽和脂肪酸およびトランス型脂肪酸から成り、インスリン抵抗性を増大させ生活習慣病の基礎をつくります。後者は多価不飽和脂肪酸で、インスリン抵抗性を改善し中性脂肪を減少、善玉コレステロールを増加する作用があります。先述したように、サンマを含めて背の青い魚のEPA、DHAがこの主役を担います。

 日本人の過去五十年間の脂肪の平均摂取比率を見ると約三倍に上昇しています。これは脂肪が“美味しい”の一言に尽きるためです。どんな脂肪を取ったらよいか? サンマこそ良質な脂を含み、栄養価も高く、その上美味しいといえます。生活習慣病の予防効果も考えて、ぜひ旬の魚として食卓に載せてほしいと思います。






(上毛新聞 2007年11月8日掲載)