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◎出発に年齢はないはず 作家の萩原葉子さんが亡くなったと上毛新聞社の記者から電話があったのは、もう二年前になる。夏には、またアユを食べに前橋に来てくれるだろうと思っていた矢先の連絡に、心のどこかにポカリと穴が開いたような気がした。東京での伊藤信吉先生のお別れ会の時に私の横で「何を話したらいいのかしら…」と戸惑いを見せていた様子は、少女のように純粋で可愛(かわ)いらしかった。著書『出発に年齢はない』の内容を実践して、三十代半ばから文章を書きはじめ、日本エッセイスト・クラブ賞や新潮文学賞、田村俊子賞はじめ女流文学賞、毎日芸術賞を受けている。生活のためにミシンを踏んでいたことが後に『しあわせをよぶねこワッペンのおしゃれグッズ』という本になっている。小柄でどこにそんなパワーがあるのかと思えるほどエネルギッシュに仕事をしていた。八十歳を過ぎてもモダンダンスに熱中している姿に感動した。 働く女性は数多く見ているが、純粋で可愛いらしく、素敵(すてき)に美しく年齢を重ね、仕事をしてきた女性に出会えたことは、私の心の励みにもなっている。 女性として働いているという意識は今までほとんどなかった。しかしギャラリーや出版という職種ゆえ女性らしさが生かされる場合もある。女性が本来持っている能力を自然に仕事に生かす。ステップアップのため現在している仕事とは全く関係ないプラスワンの自己投資を実践する。料理や語学を学ぶのもよいし、スポーツジムに通うのもよい。とにかくフィールドを広げる。好奇心を持ち続ける。人とのかかわりを大切にすることで心が安定してくる。 以前の上司の教えに「嫌なもの、苦手なものから飛び込め」という話があった。実際に飛び込んでみると意外にスムーズに事が運んだり、解決方法があったりで「なるほど」と納得した。仕事の量と能力的な限界を感じることは何度となくあったが、フウッと息をして、肩の力を抜いてみると目の前に山積みされた仕事も簡単に処理できるヒントや方法が浮かんだりする。 女性が仕事をしながら家庭生活をすることがどんなに大変なのか? そのバランス感覚を養い、満足のいくような生活設計ができれば、女としてこれほど幸せなことはないとは思うが、なかなかうまくはいかないのが現実だ。優先順位もつけられない。その時により順位も変わりバランスも変化する。しかし、一人の女性がすることに仕事も家庭も、そんな切り替えが必要なのだろうか…と考える。「私の美学」というものがあったとしたら、仕事も家庭も友人とのつき合いも、「私らしく」仕事をし、「私らしく」生活してきた中にある。 年齢を重ねてきて自分に自信が持てるようになったのは、出発に年齢はないことを身をもって教えてくれた人の存在かもしれない。書棚の上で横になっている萩原葉子さんのねこワッペンの目は、時々キラリと光って「私は今でも踊っているのよ」と小さい声で話しかけてくる。 (上毛新聞 2007年11月7日掲載) |