視点 オピニオン21 |
■raijinトップ ■上毛新聞ニュース |
|
|
◎民間も工夫と努力を 一年ぶりにドイツ、デンマーク、英国を仕事で回ってきた。滞在先ではできるだけ、町や村のたたずまい、人々の表情などを観察した。また、旧友と食事を取り、ゆっくり語る機会をつくった。 「相変わらず欧州はゆったりとしているな」というのが第一印象であった。勿論(もちろん)、欧州でも旧東欧諸国やアジア、アフリカなどからの移民や労働者が急増し、ユーロ高によって工場が減るなど、新たな問題は起きている。しかしながら、人々は暮らしに満足し、将来に対する不安も日本ほど大きくないように思えた。また、美しい町並みや緑豊かで整然とした田園風景は相変わらずであった。日本の町や村では、休耕田や耕作放棄地が増え、工場や店舗、住宅などが虫食い状になっている。また、私の子供時代にあったような田舎なりの活気や人の姿がなくなって久しい。農村部だけでなく、地域の中心都市でも市街地は、人通りが少なく寂しい商店街が目立つ。 なぜ、このような差がでているのか疑問に思い、欧州の友人たちに地域でどんな工夫があるのか尋ねてみた。スイスとオーストリアとの国境に近いドイツ南部で果樹農家に生まれ育ち、現在もそこでホップ会社に勤めているラインホルトは、「若者が働ける場所を地域につくることが前提だが」といって、若い世代とお年寄りが隣り合い、混在して住む集合住宅が整備されていることを事例として挙げた。そこでは高齢者が若い世代の子育てを手伝い、逆に若い世代が高齢者の買い物や病院通いなどを助けている。また、世代間で互いの経験や知恵を教え合うことも多いという。 もう一つは、地域のクラブ組織の存在を挙げた。サッカーなどのスポーツ、赤十字、自衛消防隊、園芸や釣りなどのクラブである。ドイツでは生涯を通じて同じクラブに所属し、数世代が一緒になって活動している。ちなみに、彼と彼の父は同じブラスバンドで四十五年以上も、一緒に音楽を楽しんでいる。 デンマークでは、マリサ、フィン夫婦と夜十一時近くまで食事と会話を楽しんだ。彼らは共働きで三歳の幼児がいるが、「今晩は娘と一緒にお泊まりしてくれるベビーシッターを頼んだから、遅くなっても大丈夫」といっていた。そのベビーシッターは、娘から“第三のおばあちゃん”と慕われている。ゼロ歳児から預かってくれる保育施設やベビーシッター制度が充実しており、子育て中でも母親たちが安心して働き続けられ、自分の時間を楽しむ余裕もあるという。 地域社会の維持や活性化には、そこに産業があることが前提である。また、学校や医療、交通、郵便など、公共サポートの仕組みも維持し整備していかなくてはならない。しかし、すべて国や地方自治体にその責任を負わせるのではなく、個人や民間組織、会社なども、独自の工夫と努力をしなくてはならないだろう。欧州などの事例も学びながら、皆で知恵と汗を出し、心豊かで安定した暮らしが続けられる地域社会を実現したいものである。 (上毛新聞 2007年11月6日掲載) |