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◎命とは何なのかを知る 一九七〇年代のブラジルでは、原野を開発する際、野生動物の生息のために10%の土地を残すことが義務付けられていた。開発とともに多くの野生動物たちが姿を現してくる。大きなアリ塚のシロアリを求めて、ふさふさした長い尾を揺らしながら徘徊(はいかい)するオオアリクイ。そこかしこで見られる硬い鎧(よろい)に包まれたミツオビアルマジロ。川から上がってくるカピバラは体長が一メートル以上もある世界一大きいネズミの仲間である。多くの野生動物の行動は夜間だが、昼間現れるものもいる。五、六羽の集団で出現するレアは走る鳥で飛ぶことはできない。放牧牛のためにつくられたミネラル補給所に集まるのは塩を求めるシカの群れ。空中高く舞うクロコンドルは死骸(しがい)の掃除(そうじ)屋さん…。野生動物との共生である。 放牧牛を管理する上で最も大切なことは、死なせないことに尽きる。特に経済的損失の大きい伝染病の侵入阻止は至上命令。これは、牧場で働くスタッフ全員の連携で相当程度、達成可能である。しかし、毒ヘビと落雷による死から逃れさせるのは難問中の難問である。尾の先端を激しく震わせて自分の存在を知らせるガラガラヘビの毒は強烈過ぎる。また、雨期の雷を伴う豪雨は、その雨の量のすごさにも増して、轟音(ごうおん)「ゴロゴロ、バッキーン!」に体が揺れる。牧柵に落ちた雷は二十数頭の牛を一度に跳ね飛ばして殺した。 広大な牧場で日常的に遭遇する動物たちの死は、人々に、死を見つめるからこそ分かる命の存在を指し示しているようである。 ここ数年、群馬県内の山間部ではイノシシやカモシカによる被害が激しい。イノシシ駆除に出動した猟友会のある会員が、孫から「動物を殺してはいけないって、学校の先生が言ってたよ」と非難されると困惑していた。 わたしは、子供のころ見た映画「子鹿物語」を思い出す。森から連れて帰った子鹿と開拓地に暮らすペニー一家との関係を通して、主人公のジョディ少年が成長していく様子を描いた物語である。原題は「The yearling (当歳馬)」といい、アメリカでは学校の必読書の一つとして推奨されたとも聞く。これは、自然とともに生きるということはどういうことなのか、野生動物や飼育動物と人との関係はどうあるべきなのか、そして<命>とは何なのかを、私たちに問いかける絶好の物語でもある。 当歳馬はじゃじゃ馬である。その馬がおとなの馬になるためには多くの関門を通らねばならない。少年ジョディが乗り越えなければならない関門とは? 人は大人へと向かって成長せざるを得ないのか?子供時代への決別、踏み出す大人への第一歩の過程で揺れる心の葛藤(かっとう)。原作者マージョリー・キナン・ローリングズがピュリツァー賞を受賞した映画「Theyearling」は、中学生諸君にぜひ見てもらいたい映画である。 (上毛新聞 2007年10月31日掲載) |