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◎知識と態度と行動で 二十数年前、日本ではじめてエイズ患者が発症した時、原因がわからず得体(えたい)の知れない恐ろしい病気というイメージが流布され、パニックが起きた。しかし、今やエイズは後天性で感染力の弱いエイズウイルス(HIV)によるものとわかり、ワクチンは未開発であるが治療薬の飛躍的な向上によって、HIVに感染してもエイズにならずに生活している人々が増加している。 一方、無知によるパニックが去るとともに関心は薄れ、エイズはアフリカやアジアの問題であり、自分には関係ない他人ごとだという意識が蔓延(まんえん)してきているように思う。現実は、HIVが発見されてわずか二十五年の間に世界で六千万人が感染し、二千万人もの人が死亡している。これは戦争や紛争による死亡者数をはるかに上回っていることになり、NPO法人「プレイス東京」の池上千寿子代表は二十一世紀に持ち越された地球規模の大きな課題だと警鐘を鳴らす。 実際、昨年一年間で群馬県の人口をはるかに上回る二百九十万人が世界中でエイズによって死亡した。特にHIV感染は十五―二十四歳までの若者に集中し、感染した十五歳以上の中で、40%を占めている。日本においても同様の結果が出ているが、それでも他人ごと意識は根強い。 一方、二○○四年にぐんま思春期研究会が行った県内十八校の高校生五千四百九十八人に対する性意識・性行動調査の結果によると、性交経験率は三年生男子では45%、三年生女子で38%に達している。しかし、避妊の実行率は、男子が54%、女子が57%にとどまっている。しかも性器クラミジア感染症は十代の女子に顕著に増加しており、これらの性感染症に罹患(りかん)しているとHIVに罹患する確率が通常の二―五倍といわれている。この数字を見る限り、若者にHIVが増加するのはいとも簡単なことだといえる。 そこで、高校でのピアエデュケーションの中では「性のネットワーク」という、HIVになってしまったカップルの劇を行い、高校生たちに前に付き合っていた彼や彼女役になってもらっている。高校生たちは登場人物になり、他人ごとではなく「自分ごと体験」をすることになる。そして「たった一回だから」「この人だけだから」ということでは感染を防げないこと、「ノー・セックス」や「コンドームを最初からつけたセックス」によってお互いを守り、性感染症の連鎖を断ち切ることができることを彼らは参加体験の中で納得してゆく。学生たちは、HIVの知識だけあっても予防はできないこと、「自分も相手も大切にしたいという思い」と「その場に流されないで、意思を言葉にして伝える勇気」「実際の予防行動が確実にできること」、つまり知識・態度・行動の三つがそろってはじめて性感染症は予防できることを訴えてきた。 今年も世界エイズデー(十二月一日)が近づいた。レッドリボン活動が、自分や隣にいる仲間がいつでも当事者になりうることや感染者のことを考える機会となるようにしたいものである。 (上毛新聞 2007年10月7日掲載) |