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◎優秀な人材を多く輩出 今回で十回目を迎える太田国際音楽セミナーは今月十六日から二十一日まで、太田市で開催される。今回も全国からピアニストの卵たちが太田に集い、充実した時を過ごす。継続は力なりといわれるが、このセミナーを多くの困難を乗り越えて今日まで続けてくることができたのも、音楽の持つ不思議な力に背中を押されて関係者一同、心を一つにしてきた成果だと思う。過去のセミナーでは各国から講師を招聘(しょうへい)し、音楽を通して彼らの文化、歴史、思想などに触れることができたが、近年は旧ソ連時代には遠い存在であったロシアンピアニズムに注目し、セミナーのテーマとしている。 ロシアはチャイコフスキーやラフマニノフを生んだ芸術大国である。現代に至っても膨大なピアニズムの系譜を有し、優秀なピアニストを多く輩出している。それはロシアの教育システムにある。ロシアでは各地にコンセルバトワール(音楽院)があり、選抜された才能豊かな子供たちが学ぶ。その中の優秀な者がモスクワへ送られて徹底した教育を受け、さらにその中の優れた者が国際コンクールに入賞したり、故郷へ帰り後進の指導に当たったりする。まさに理想的なシステムである。 ロシアは広大な国であるためいろいろな民族の血が混じり、外見的にもさまざまなタイプの人間が存在する。ピアニストを例にとると、長身で巨漢、熊のような肉厚の手を持つガブリロフ、同じ長身でも痩やせ形で神経質そうなラフマニノフ、ホロビッツ、ブーニンがいる。逆に驚くほど小柄で指も一オクターブ広げるのがやっとのスクリャービン、アシュケナージもいる。太田の講師のトロップ氏は後者のタイプである。 トロップ氏はロシアンピアニズムを継承する数少ないピアニスト、教育者である。旧ソ連時代にモスクワで生まれた。一貫してグネーシン音楽院で学び、大学院卒業後は母校の教授となって優秀な多くの弟子を育てている。また、国際コンクールでも入賞している。氏のレッスンは技術のみならず、哲学、文学、歴史、宗教に至るまでを音楽を通して伝授してくれる。演奏は決してテクニックをひけらかすことなく、一つ一つの音に血を通わせて作曲者の思いを込めるため、聴く者の魂を揺り動かすものである。 旧ソ連時代の芸術家は生活面での心配がなく、コンサートなどはすべてセッティングされ、音楽だけに没頭できた。しかし、今日では自身ですべて企画せねばならず、ビジネスの手腕がないと活動を続けるのは難しいらしい。資本主義がロシアの芸術世界を変えつつあるのだろうか。 未来を担う若者は国の宝である。一地方都市で生まれた太田国際音楽セミナーの存続を願い、才能を秘めた若者の発掘と育成に努めて、さらに彼らの将来も見守っていくことはわれわれの責務であると思う。そして、音楽する「喜び」と「ときめき」を互いにわかち合い、広く世界に発信していきたい。 (上毛新聞 2007年10月1日掲載) |