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キリンホールディングス常務 松沢 幸一(さいたま市浦和区)

【略歴】 千代田町出身。館林高、北大農学部修士課程修了。1973年にキリンビール入社。キリンヨーロッパ社長、生産統轄部長、常務を経て、2007年7月から現職。農学博士。

食の安全・安心

◎企業と消費者の努力で

 ガス湯沸かし器、自動車などさまざまな製品で事故やトラブルがおき、当該企業の経営姿勢が社会的批判を強く浴びている。食品業界においても事故、不祥事が後を絶たず、消費者の食の安全・安心に対する期待が裏切られ、企業に対する信頼が損なわれている。特に二○○○年以降、BSE(牛海綿状脳症)発生や食肉の偽装表示、乳製品による食中毒、腸管出血性大腸菌O157やノロウイルスによる食中毒、中国産野菜の残留農薬、最近では菓子類の偽装表示や賞味期限の改ざん事件など、食品をめぐり、さまざまな事故や不祥事、問題が起きている。

 いったんこのような事故や不祥事が明るみに出れば、当該企業は消費者の信用を失い、場合によっては存続そのものが揺るがされる事態になる。さらには、その食品一般や業界全体にも影響が及び、法律や行政に対する不信や不満を生み出すことにもつながりかねない。

 なぜこのような事故や事件が続発するのであろうか。その要因として、(1)消費者の品質や価格に対する要求が年々厳しくなっている(2)法律、規則などが頻繁に改正され、中身や賞味期限などの表示が複雑になっている(3)輸入食品が増大している(4)マスコミが大きく取り上げるようになっている―などが挙げられるだろう。

 しかしながら、メーカー自身の経営姿勢に最も大きな要因があると思わざるをえない事例も多い。食品に携わる企業とその経営者は、常に安全で信頼できる商品を提供するという義務を負っていることを強く自覚しなければならない。「これくらいなら」という甘い認識で、目先の利益を優先するようなことがあってはならない。

 製造や流通過程においては、設備や製造方法を整備し、ISOやHACCP(高度食品衛生管理システム)などによる客観的で効果的な品質管理をする必要がある。従業員には業務についての知識や技術を教える以外に、経営理念や方針を理解させ、法令と社会規範を順守する意識を徹底させなくてはならない。

 また、製造・流通過程で何か異常があったら、その情報が迅速かつ正確に管理者や経営者に伝わる風通しの良い組織風土も培っておかねばならない。さらに、消費者の誤解を招く広告や宣伝をすることは絶対に慎み、根拠のある正しい商品情報を提供することも当然のことである。

 しかし一方で、消費者にも適切な理解と判断を求めたいことがある。食中毒や健康危害などを起こさない本質的な安全・安心にかかわる取り組みや、不正な表示や販売方法など企業姿勢や経営者の倫理について、消費者として厳しい目をもってしっかり見ていただきたい。また、テレビや新聞、インターネットなどを通じて、食品の健康効果や生理的効能に関する情報が氾濫(はんらん)し、時には強調され過ぎ、行き過ぎの表現も見受けられる。それらをよく吟味し、賢い判断や選択をする必要がある。

 企業と消費者が共に意識し努力して、真に安全・安心で豊かな食生活を享受できるようにしたいものである。






(上毛新聞 2007年9月30日掲載)