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日本産婦人科医会県支部長 佐藤 仁(高崎市竜見町)

【略歴】 岩手医科大卒。医学博士。1971年から産婦人科舘出張佐藤病院長。日本産科婦人科学会代議員。県警察医会理事。

胎児神経管閉鎖障害

◎葉酸の摂取で予防を

 日本の周産期死亡率(〈妊娠満二十二週以降の死産数〉に〈生後一週未満の死亡数〉を加え、〈出産数〉で割った率)は世界一低くなりました。しかし、まだ千人の出産に対して四・八人の周産期死亡があります。この中には妊娠二十二週以降の早産後の死亡やお母さんの胎内での死亡による死産も含まれているからです。今回は周産期死亡の原因のうち、予防できるものについて書きたいと思います。

 胎児期の先天性奇形は体の各部に起こり原因もさまざまありますが、その一つである胎児神経管閉鎖障害は予防できることが分かってきました。

 胎児神経管閉鎖障害とは、脳や脊髄(せきずい)を作る「神経管」が妊娠のごく初期に正常に形成されないために、脊髄に異常が起こって運動機能に問題を生じることもある二分脊椎(せきつい)という病気や、脳が正常に形成されない無脳症という病気のことをいいます。

 葉酸の摂取は、胎児神経管閉鎖障害を予防する効果があります。そのため、例えば米国では葉酸の摂取を積極的に奨励し勧告するばかりか、食品にある一定濃度の葉酸を添加することを義務付けた結果、十年間で胎児神経管閉鎖障害の発生が十分の一に減少しました。しかし日本では二○○○年末に厚生省(現厚生労働省)が妊娠一カ月から三カ月までの間の葉酸の必要性を公表しましたが、いまだ一般化されず、葉酸摂取を心がけた妊婦は全体の0・7%にすぎません。そのためか、胎児神経管閉鎖障害の発生率は減少するどころか漸増し、米国の八倍に達しています。

 葉酸はホウレンソウから見つかったビタミンB群の一つで、B12、B6、Cがなくては働かない、わがままなビタミンです。必要量は成人で一日○・二ミリグラムですが、妊娠女性では倍量の○・四ミリグラムが必要です。レバーやホウレンソウなどの緑黄色野菜や果物、大豆に多く含まれていますが、水溶性ビタミンのために溶け出してしまったり、調理の途中で分解されることもあるので、妊婦が必要量を一般食品から摂取することは、個人の食生活や食習慣を考慮すると必ずしも容易なことではありません。

 このようなことから葉酸は、不足分を栄養補助食品(サプリメント)によって補うことが適当と考えられます。不足すると貧血、流産、早産、妊娠高血圧症候群などが起こりやすくなります。葉酸の取り過ぎによる悪影響は報告されていません。

 赤ちゃんの内臓や神経管は妊娠のごく初期に急速に形成されます。このため妊娠を望んでいる女性、また日常生活で妊娠の可能性のある女性は直ちに葉酸の摂取をお勧めします。胎児神経管閉鎖障害は、現代医療で未然に防げる異常の一つです。ご自身の努力と周囲の理解で、健康な赤ちゃんを産んでください。






(上毛新聞 2007年9月26日掲載)