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◎自分の音楽に出合える 「子どものための音楽」を学んだオーストリアのザルツブルクにあるカール・オルフ研究所。ユニークな授業がたくさんあった。手作り楽器を作曲の授業の中で学んだ。現代音楽の作曲を学んだ後の授業だったので、作った楽器をどう生かすか夢が広がった。 手作り楽器の多くは、きちっとしたドレミファソラシドのでるピアノや笛など私たちが普段見なれている楽器とは、違っている。だから手作り楽器を使って音楽を演奏しようとする時、今までのように楽譜があってそれを見ながらというわけにはいかない。自然と新しい形の音楽を作ることになる。創造的なのだ。普通の楽器は、ある程度楽しめるまでに練習が必要だったり、うまい、へたの差がでてしまったりもする。手作り楽器は、簡単に音のでるシンプルなものだ。ひょうたんに豆を入れたり、竹の筒で音をだしたり、植木鉢に革をはったり…。大人も子どもも障害のある人もない人も一緒に同等に楽しめるのだ。 私たちは、たとえばクラシックやジャズが弾けることが上で、好きに楽器をならす音楽は、あまり上等でないと考えがちだ。でも本当にそうだろうか。たしかに美しく演奏できることは、素敵(すてき)なことだ。それを聴くことは、私も好きだ。でも違う意味をもつ音楽もあるのだ。 楽譜をつかわないので自分の好きに音をだせる。その時の気分をそのまますぐに表現できる。他の人と楽器をつかっておしゃべりできる。創造的に自分を表現すること、他の人と触れあうことが大切と考える音楽だ。 カール・オルフは、自分の教育法を「音楽教育」と言わずに「人間教育」と言っている。音楽を通して、しあわせな人間になることを目的としている(このことは、奥が深く、まだ私も本当のことをいうと十分理解できていない。ただ自分を表現することや他の人と触れあうことの楽しさは、実感している)。 留学中にフィンランドのシベリウスアカデミーを見学し、教育学部の授業を参観した。そこでも忘れられない出会いがあった。ピアノの即興の授業で、先生はエサというジャズピアノの演奏者。「だれかピアノを好きに弾いてみて」と言われ、一番ピアノの苦手な私が弾くことになった。自由に好きなように弾いてみた。途中からエサが一緒に演奏をはじめた。心地よい気分で弾いているうちに、なんだかエサとピアノでおしゃべりをしている気がしてきた。演奏のあとエサが言った。「学生は、はじめ自由に弾くことに抵抗を感じる。でも僕は、学生に自分の音楽を弾いてほしいと思っている。そして自分というものに自信をもってほしいのだ」 楽譜があり、その曲をうまく弾くことを目的にしない音楽にまた出合うことができた。台湾の音楽大を出た留学生が言った。「私たちは、担当の先生の気にいるようにピアノを弾いてきた。自分の音楽に出合いたかった」 後日談。エサの音楽の授業をうけたくなった私は、ぜひレッスンをうけたいとエサに手紙をかいた。残念ながら受けることはできなかった。いつか…。 (上毛新聞 2007年9月24日掲載) |