視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
かのはら・ふれあいネットワーク事務局長 新井 恒好(富岡市神農原)

【略歴】 高崎工業高建築科卒。一級建築士事務所長。1985年に県少年警察協助員を委嘱され、現在は県少年補導員富岡地区少年補導員連絡会会長を務めている。

子供の居場所

◎地域で育てる意識を

 二〇〇六年七月三十日、真夏の太陽が照りつける暑い日だった。朝八時半ごろから冨士神社境内に子供たちが集まってきた。境内には前年に地区住民が手作りで完成した「かのはらふれあい館」がある。この建物の正面のシャッターと外壁に壁画を描くためだ。縦四メートル、横七メートルの巨大なキャンバスには「かのはら・ふれあいネットワーク」スタッフの手で足場が掛けられ、準備万端である。

 子ども会の呼びかけで集まった五十人余りの子供たちは、市内で塗装業を営む佐藤豊さんの指導のもと作業を開始した。描かれる絵は地域に伝わる伝統文化を題材に隣家の今井孝一さんが図案化したものである。大変楽しそうに作業に熱中する子供たちの姿は印象的であった。一緒に参加した母親の一人は「子供がこんなに喜ぶとは思わなかった、参加させてよかった。夏休みの最高の思い出ができました」と感想を述べた。昼食には、ふれあいネットスタッフ手作りの焼きそばが振る舞われ、夕方までには立派な壁画が完成した。

 これは社団法人全国少年補導員協会が、地域における少年警察ボランティアの活動の活性化と広報、そして少年たちの社会参加活動意識の高揚を目的に実施している「地域ふれあい事業」の一環である。主催した富岡地区少年補導員連絡会では、かのはら・ふれあいネットワークの活動に着目し、その活動を通して「郷土に子供たちの居場所をつくろう」との趣旨で事業を展開した。本事業は単年度事業であるが、居場所づくりには時間がかかるとの観点から前述の壁画制作のほか、神農原地区で毎年実施しているお囃子(はやし)の練習、しめ縄作り、どんどん焼きに加え、子供と大人の交流の場としての多目的広場の整備、そして啓発事業として「かのはら・ふれあいフェスタ」を開催するというプログラムである。

 事業は、かのはら・ふれあいネットの全面的な協力を得て順調に消化された。十月には多くの住民と少年補導員、警察関係者などが参加し、ふれあいフェスタが開催され、完成した壁画や子供たちのお囃子の練習成果、郷土芸能の披露がされるなど子供たちとの交流を深めた。その後、しめ縄づくり、整備された広場でのどんどん焼き等の行事を消化し、平成十八年度地域ふれあい事業は終了した。

 一年間の事業で子供たちの居場所ができたかどうかは別として一定の成果は認められる。

 いずれにしても子供たちの居場所は特定の場所ではなく、子供たちが生まれ育つ郷土そのものでなくてはならない。そのためにはそれぞれの地域で大人たちみんなが、「地域の子供は地域で育てる」という意識を持つことが大切であり、そのための活動が必要である。地域住民間の交流を密にし、大人も子供もお互いを信頼し合える人間関係が構築されてこそ、子供たちの居場所ができるのではないか。日本の社会が地域の力を取り戻し、一日も早くその日が来ることを願ってやまない。






(上毛新聞 2007年9月2日掲載)