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県経営者協会専務理事 松井 義治(前橋市関根町)

【略歴】 中央大卒。県経営者協会事務局長を経て、2002年4月から現職。群馬地方労働審議会委員、県労働委員会使用者委員、日本経団連地方経営者協会専務理事会副議長。

格差社会

◎通用しない普通の人材

 「格差社会」の是正が叫ばれている。賃金格差、地域間格差、教育格差などが論じられているが、主に賃金格差について考えてみると、これが悪役の筆頭のような扱いをされている。

 一夜にして莫大(ばくだい)な金を手にする人がいたかと思うと、景気拡大が続いているのに、働けど働けど食べていける限界を超えられない「ワーキングプア(勤労貧困層)」や生活保護を受けている家庭が増えている。しかし、仮に格差をなくして誰しも平等になったら、人一倍頑張って仕事をしても損だという人たちが増えてきて、やがて勤労意欲を失った社会は衰退してしまう。格差があるから努力し、努力すれば見返りがあるから、人々を競争させ、社会を発展させて、国民生活を豊かにしたり、弱者を救済したりできるのだ。だから、格差をなくすわけにはいかないし、あればあったで社会に問題を生じさせてしまう。その点で格差は「必要悪」だ。

 しかも最近では、親の所得によって子供が受ける教育のレベルにも格差が生じ、その子の将来の収入さえも決まり、格差が「世襲」だと言われるようになってきた。これでは時代に逆行しているように思えてならない。こうした格差がさらに拡大すれば、多重債務者や自殺者の増加なども起こるのではないだろうか。それが、ある程度のセーフティーネットや対策を必要とするゆえんである。

 近年、経済のグローバル化により、世界規模での競争にさらされている企業は命運をかけても、賃金が安い、労働者の能力や勤労意欲が高いといった条件が合えば、世界のどこへでも生産拠点を移していく。全世界で企業がすさまじい勢いで最適地を探して移動している。中でも大きな魅力は人件費が安いことだ。途上国の賃金には日本の何十分の一といったものもある。だから、日本からだけでなく、世界中から仕事が移っていく。こうして途上国にも富裕層が出現し、格差も拡大する。その分、日本国内の仕事が減って、賃金の増えない人たちが出てくるから、国内でも格差が拡大する。

 しかし、仕事を戻すために途上国並みに賃金を下げるわけにはいかない。企業にとっても、生き残るには競争に勝つことしか選択肢がない。その点、他企業との競争条件が同じなら、あとは差別化をはかるしかない。そのため、どうしても欲しいのは高い技術や能力と意欲のある人材だ。求める人材であれば、高い賃金を支払ってでも雇いたいのである。勤労者にとって、今や高い学歴や普通の人材だけでは通用しなくなった。個人それぞれが他の人と差別化した能力、つまり高い賃金で雇ってもらえるような新しい知識、技術を身につけ、人一倍高い勤労意欲を持たなければならない時代である。






(上毛新聞 2007年8月29日掲載)