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全国フィルム・コミッション連絡協議会専務理事 前澤 哲爾(東京都品川区)

【略歴】 館林市出身。慶応大卒。山梨県立大国際政策学部准教授。NPO一新塾理事。国際NGOシャプラニール評議員。地球環境映像祭審査委員長。

職人文化

◎日本の技術力を発信

 ここ数年、毎年十回ぐらい海外に行くようになった。さまざまな国を訪れ、多くの刺激をもらってくるが、同時に「日本のいいところ」にも気づく。その中で最近強く感じることが、「日本は職人文化の国」ではないかということだ。職人と言えば、すぐ「伝統工芸」に限定してしまいがちだが、日本人の美意識や多くの技術や商品がここから発しているように思えてならない。

 モモは世界のどこでも売っているが、日本のモモのように大きく、美しく、丹精して作られたものはほとんど見かけない。大抵は、直径五センチぐらいのもので、箱に山盛りにされ、一キロ単位で売られている。

 世界各地の観光地はどこでもお土産を売っているが、日本ほど品数が多く、バラエティーに富んだ国はない。おびただしい数の記念グッズ、食品、菓子類、遊び道具、工芸品が密集して並べられている。米国などは、Tシャツ、キーホルダー、マグカップにそこの地名が書かれているようなものばかりで、買いたいものはない。

 自動車もそうだ。日本車は故障しない。随分前のことだが、欧州系の車に乗っていて、日本では考えられない故障が頻発したことがあった。それらはいずれも機械的なトラブルで、部品の精度に関係していた。同じ一流メーカーでも、生産技術の面で日本メーカーは抜きん出ている。だからこそ、壊れにくい日本の中古車が、世界中の国で元気に走り回っているのだ。

 家の建て付けでも思う。日本では扉が回りの柱や壁にすき間なくきちんとはまっている。日本人にとってはあたり前だが、海外に行くとそうでもない。機能的に閉まれば問題ないとはいうものの、日本人にはそれを許さない美意識があるようだ。

 ラスベガスや各国リゾートにあるカジノでは、なぜか今でも単純なスロットマシンが並ぶ。そのアナログさも捨て難いものだが、日本にあるスロットだけは高度な技術とデザインで競争している。これだけ商品開発に貪欲(どんよく)なのは、なぜなのだろう。

 日本人は常に新しいものを作ることに喜びを持っている。どうでもよさそうなことでも、技術革新の力をそこに傾ける。どうやらそこに江戸時代から引き継いだ職人魂のようなものを私は感じてしまう。

 多くのヨーロッパの人は日本にあこがれを感じている。その大きな理由は、長い歴史と伝統文化を持ちながら、一方で飛躍的な経済成長を果たし、多くの先端技術を有する企業が生まれた不思議な国だからである。彼らにとって、日本はいまだに最果ての「ジパング」である。その伝統と先端は、この職人意識でつながっているのではないかと私は考える。

 私はひそかに「和菓子」を世界ブランドにしたいと思っている。全国どこの小都市に行っても和菓子屋がある。主人自ら創意工夫し、季節感を大事にして素材を探し、見て美しく食べておいしいものを開発する。それも製造販売だ。こんなに優れた文化は日本以外にはない。物流と検疫の体制が整えば、一挙に世界に広がると確信する。これが地域活性の原動力になると思っている。






(上毛新聞 2007年8月27日掲載)