視点 オピニオン21
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不動産鑑定士 須田 知治(伊勢崎市田中島町)

【略歴】 明治大商学部卒。家事・民事調停委員、総務省行政相談委員、伊勢崎市都市計画審議会委員、伊勢崎ジュニアオーケストラ理事などを務める。

政治と世襲

◎庶民の声は届くのか

 国会議員の中で世襲や官僚、タレントの出身者の占める比率は相当数に上っているものと思われる。三者におおむね共通する点は経済力、生活環境、人脈などにおいて一般庶民とは感覚的に乖かい離りしていることであろう。彼らと庶民とが同じ目線で世間を観察し、同じ気持ちで生活感を共有しているようにはあまり思えない。

 世襲議員にあってはことさら、その傾向が顕著ではないか。親から子、子から孫へと数代にわたる職業政治家の家系においては独特の家訓と思想が存在し、それが連綿として受け継がれることによって、世間とは異質の常識が形成され、固く守られてきているに違いない。富や名誉や優越感は当たり前のごとく承継され、政治家になる道はいつも手近な位置にある。国会議員になることは庶民にとっては夢のまた夢である。それが彼らにとっては用意されているレールに乗るだけでよい。

 あとは家の子郎党が忠実に支え、めったに落選させるようなことはしない。武家が戦に強いように、世襲家はもともと選挙に強いのである。数十年もの間、常時が選挙のための鍛錬の連続だからである。加えて温室育ちが多いせいか、人柄の良い者が少なくはないと聞く。選挙に強く、人柄が良い、それを安心材料として近郷近在から支援者が参集し、実力者がそれに号令をかける図式がいまも続いている地域は少なくはない。

 たとえその地域に能力的、人格的に優れた逸材が存在しようとも、世襲家が存続している限り、政治に打って出る機会などほとんど閉ざされているに等しい。世襲「名家」を守護する実力者が有言無言の圧力を加えることは必定であろうし、それを恐れる親類縁者からは強くいさめられるに違いない。無名の逸材を発掘し、それを開花させるのも実力者の務めなのに、その芽を摘み取り、野に朽ちさせても後ろめたさを感じようともしない。先代たちがいかに優れた政治家であろうとも、その子孫までが同じ資質を継いでいるとは限らないのだから、「名家」に対する忠誠心もどこかの代で区切りをつけてほしいものである。

 世襲議員による総理大臣が続いている。歳とし若くしても、彼らの思想や発想の中に若さを感じられないのはなぜであろうか。世界観や歴史観は虚心な気持ちで学ぶべきはずなのに、現総理の場合、祖父の思想が潜入しているように思えてならない。内外情勢も先に好都合の結論ありきの姿勢で判断している感がある。

 前、現総理は改革の成果を口にしてはばからない。失われた十年は取り戻したという。なのに地方は好況感が希薄で、地価の下落は十五年たっても止まっていない。犯罪、自殺、“年貢”の取り立てだけが着実に増え、収入減と人心の荒廃は著しい。改革の恩恵など何ひとつ浴していない庶民の方が断然に多いのである。

 世襲議員が掌握する国政下では、庶民の声は届きそうもない。往々にして彼らに共通する独善性と狭視性が国を不幸にしなければよいのだが…。






(上毛新聞 2007年8月24日掲載)