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◎出産脳性まひに適用 現在、「分娩に関連する脳性まひ(CP)に対する障害補償制度」が話題になっています。希望に満ちて生まれた赤ちゃんがCPになるということは大変不幸なことです。 このような赤ちゃんが生活してゆくには多大な費用と人手がかかります。しかし残念ながら現在の日本にはこのような赤ちゃんを経済的にも社会的にも救う制度がありません。家族とすれば何らかの補償を求めることは当然のことで、その対象が分娩に立ち会った医師または医療機関になってしまうわけです。 ここに医療訴訟が発生します。医療訴訟は結論が出るまでに数年から十数年と長期にわたり、費用も高額です。これらの問題を短い期間に救済し解決しようとする障害補償制度が国も関与して検討されています。 脳性まひという言葉は、今から百五十年前に英国の整形外科医W・J・リトルによって記述されました。その発生要因は、未熟性と分娩時の外傷と仮死であろうと推測しました。これらは産科的なケアによって改善され、CPの頻度は減少するとも述べています。しかしCPの発生頻度は、昔も今も、日本も、欧米でも千人の出生に対して平均二件発生しています。 CPの発生要因について、日本の教科書「小児科学」(奥田六郎編)で「出生時仮死による脳障害が最大の要因となる。以前は頭蓋(ずがい)内出血が重要視されていたが、現在では無酸素性脳障害がもっとも重要な原因と考えられている」と記述されています。このことから産科医を除いた多くの医師、ひいては市民の「常識」として出生時に起こる仮死がCPのもっとも重要な原因であると誤って認識されています。 海外の主な調査結果では正期産CPのうち分娩時仮死は各国とも12―24%までの低率です。一九九三年の国際的専門家による研究会で「分娩時仮死であるという十分な根拠がないのに、新生児期に脳症状が出たからといって、容易に診断をすべきでない。あくまで『新生児に発生した脳症』という診断で経過を追っていくべきである」と宣言しました。また、九八年のロンドンでのCP研究会で、「正期産のCP児発生率は決して減少していない。原因は胎生期以前に発生している率が高い」「成熟時出産の新生児脳症状を呈する症例は、必ず二、三歳以降のMRI(磁気共鳴断層撮影)を撮るまで、容易に原因診断をすべきでない。『低酸素性無酸素性脳症』という診断はよほど明確な根拠がない限り用いるべきでない」と言っています。 このように正期産CPの約八割は出産時の処置が原因でないことが、訴訟の長引くもとになっているのです。このように訴訟が厳密に判断されると、救われない赤ちゃんや家族が多く出ます。これを救済するものが「無過失補償制度」です。 この制度の成立により脳性まひ児の家族と医療者間の争いが少しでも減少し、医療側も無過失の責任を一方的に取らされるという不安も軽減され、出産に従事できれば、出産施設減少の歯止めの一つになることが期待されます。 (上毛新聞 2007年8月9日掲載) |