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◎良好な関係にきしみ 前回(五月二十二日付)、個人情報保護に対して異を唱えたら、多くの方から共感の声をいただいたので意を強くしている。一般市民が広く世間に向かって発言する機会はめったにないので、その機会に恵まれている私が代弁の意味を込めて、個人情報保護についてもう一度、意見を述べることも必要なような気がする。 過去にあっても現在においても、個人情報保護法ほど市民の間で急速に広く浸透した法律はほかに例をみないのではなかろうか。決して歓迎されたわけではない。行政で個人情報保護が深刻に語られるようになり、それに触発されて早い速度で市民の間に浸透していったからであろう。しかしながら市民の間ではいまだに釈然としないものがある。住所、氏名、年齢、職業、家族構成などがどうして個人情報に該当し、秘密にしなければならないのであろうか。長い歴史過程で、当然のごとく知らせ合い、時としては公開までされ、それによって良好な人間関係が維持されてきたものが、いまになって個人情報として絶対視され、社会生活から遮断される必要があるといわれても、おいそれと納得するわけにはいかないのである。 個人情報保護にもそれなりの成果はあろうが、それから派生するゆがみの方がはるかに大きい。行政は責任回避に終始し、市民がこれに追従するなど責任逃れが蔓延(まんえん)している。個人情報の抵触を恐れて、憶病になっているせいである。仕事と責任は表裏の関係にあり、仕事に励む者には責任が多く、仕事を怠ける者には責任は少ない。だからといって、仕事を怠ける者が増えると、この先、この国はどうなってしまうのであろう。世界に後れをとり、取り返しがつかなくなることは必定である。 語りかけても、道をたずねても、かかわり合いを避けて素知らぬ振りをする者が増えるであろう。背を向き合わせ、肘(ひじ)でつつき合う寒々とした人間関係がいや応なしに進行するに違いない。誰かがこの風潮に気付き、歯止めをかけてくれると良いのだが、政治家や官僚でもない限り庶民にとっては到底無理な話である。それならば庶民で個人情報保護に対抗して名簿の作成に取りかかったらどうであろう。もちろん、お互いに了解を取り付けてのことだが、学級会、PTA、各団体などが詳細な内容を網羅した名簿を作成して配布したらよい。その輪が段々広がっていけば法の方が運用基準を緩和させるか、身を退いてくれるかもしれない。 後世の人は、「生類憐(あわれ)みの令」と「個人情報保護法」とを同列視して、希代の稚法として語るかもしれない。ともに時代が生んだ茶番劇として揶揄(やゆ)するかもしれない。悪人から庶民を守るために誕生したものであろうが、あまりにも勇み足が過ぎた感じがしてならない。その結果、行政は責任逃れを常に意識し、庶民がそれに感化されて、すべての人間関係がきしんできている。信頼関係が欠如している中で、「美しい国」の創成はあり得ない。 (上毛新聞 2007年7月3日掲載) |