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◎その子なりの時間必要 『待つこと』はなんて大切なんだろう。 私は、赤ちゃんや障害のある方と音や体の動き、言葉をつかったワークショップを運営しています。先月、障害のある子たちとのワークショップでこんなことがありました。 アフリカの太鼓ジャンベのリズムに合わせて好きに体を動かし、音が止まったらいすに座るという音遊びをしていたときのことです。みんな座っても、なかなか座らない自閉症の男の子。座ったらいいか迷っています。お母さんが見かねて「はい、座って」。その声に従うように男の子は、いすに座りました。人に言われたことができるのもすごいことです。でも私は、とても残念な気持ちになりました。もう少しだけ待ってあげたら、または、二回三回と同じことを繰り返したら、自分から座れるようになるのでは、と期待していたからです。『人に言われるのではなく自分から座ること』がとても大きな意味を持つと思います。 私がワークショップをする時、いつもお手本にしている人がいます。三十年近くロンドンで障害のある人とダンスを作っているヴォルフガング・シュタンゲさんです。ダンスといっても決まったステップや振りがあるわけでなく、参加者の何げない動き、髪をかきあげるとか、首を傾けるとか、そんな簡単な動きからダンスを作っていきます。このヴォルフさんと出会ったことが今の私をつくっているのですが…。 なかなかダンスの輪に入れない障害のある人のことが話題になった時、彼が言った忘れられない言葉があります。「人によっては、輪の中に入るのに時間のかかる人がいます。その人にはその人なりの時間の流れがあるのです。人に対する恐れがあるとか、それなりの理由があると思いますが、あきらめずにその人が参加できるようトライし続けてください」。『待つこと』は、『その子なりの時間』を尊重することです。音楽が止まった時にいすに座るということができるようになるためには、『その子なりの時間』が必要だったのだと思います。 赤ちゃんのための絵本のへや「あひるのこ」でも待つことを考えさせられることが最近ありました。「このごろ絵本を見なくなっちゃたんだよね」。理由を聞くと赤ちゃんがある本ばかり見るようになったからだと言います。それは、CD付きの赤ちゃん歯磨きの本だそうです。絵本のような柔らかなものでなく、赤ちゃんをひきつける工夫がいっぱいされていたのでしょう。そのおかげで今までできなかった歯磨きができるようになったそうです。「でもそれでいいのかなあ」。若いお母さんが一言。 早くすんなりできた歯磨き。でもそれでいいのかな?何でも早くできることがいいと考えられる風潮があります。『待つこと』の中に宝物が隠れている気がするのです。 (上毛新聞 2007年6月16日掲載) |