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◎「近さ」と群馬交響楽団 群馬交響楽団(群響)を聴きました。メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲を演奏した十七歳ソリストの確実で、かつ伸びやかな演奏がすばらしかったです。会場からも舞台の群響メンバーからも、驚きと称賛と激励の拍手がわき起こりました。 これまで私は東京ではN響を、大阪では大フィルを何回か聴いてきました。バスと電車を乗り継いで聴きに行きました。今回は、車ですぐでした。「ホールまで近くていいなあ」と思いました。群響メンバーが自分の席に向かって舞台に出てくると拍手が起きました。あまり経験のない拍手でした。客席には、和服のご婦人やスーツの男性もいましたが、普段着の人や体育着の中学生もいました。私の隣は、たったいまウオーキングを終えたばかりという格好の男性でしたが、心から演奏を楽しんでおられることが伝わってきました。舞台には、観音山ファミリーパークの「夜の公園コンサート」で毎年お世話になっている方々もいます。公園でお出迎えをしたり、演奏には不向きな会場(普段は休憩室)にご案内したりしている方々ですから、ついついその方たちに目が行ってしまいます。 唐突ですが、近年コンパクトシティという言葉が語られるようになりました。かつて、住宅や商業施設・公共施設などはゆとりある空間を求めて郊外に移り、結果的に市街地は空洞化しました。そこで、再び市街地に住宅や諸施設を呼び戻し、住宅の近くにある諸施設を徒歩や自転車を使って利用し、日常生活を快適に営むことのできるコンパクトな市街地をめざそうという考え方です。コンパクトシティでは、住宅もお店も図書館も学校も、そしてコンサートホールも、それぞれ近い所にあるというわけです。 今回の演奏会は「近い」と思いました。自宅からホールまでの物理的・時間的近さがあります。それよりも「近さ」を感じたのは、オーケストラと聴衆の近さです。すばらしい演奏をしたメンバーとは、今秋も観音山ファミリーパークでお会いするでしょう。メンバーが舞台に登場しただけで鳴る拍手は、親しみのあるスターへのエールに違いありません。群馬県人にとって群響は、おめかしをしてもよいし、普段着で聴いてもいいオーケストラでしょう。 コンパクトシティは物理的・時間的近さを基本に置いた考え方でしょう。しかし、たとえ近いところに立派な施設があったとしても、その施設にクモの巣があるようなら、コンパクトさは意味をなさないでしょう。今回のコンサートは、コンパクトさに意味を与えるすばらしい交響楽団とその交響楽団に尊敬と「近さ」を感じ、実際に「近い」関係を取り結ぶことのできる県民について考えさせられるものでした。地方の中小都市は大都市との比較の中で「地方の中小都市ですら」と言われることがあります。しかし、この「近さ」については私たちから「地方の中小都市だからこそ」と言うことができると思いました。 (上毛新聞 2007年6月14日掲載) |