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◎仕事から見える親子像 昨年の春、「友人の息子なのだけれど、お宅で研修生として面倒見てもらえないだろうか」と知り合いから頼まれた。Hくんは二十四歳。実家は静岡県の石材業だ。「一年でも二年でも修業させたい。会社の経営や企画のこと、接客、営業、設計などいろいろ勉強させてほしい。そして、う〜んと厳しくやってください」と父親。かくしてHくんの群馬での研修(修業?)が始まった。 「ハイ、それでよろしいでしょうか。ハイ、ハイ、では、そうさせていただきます」。電話の相手はだれ? 「親父(おやじ)です…」。Hくんは大学卒業後、一時、父親といっしょに仕事をしていた。そのころ、父親から小さなこともいろいろと口うるさく頭ごなしに言われたという。初めは普通に話を交わしていたが、やがて我慢できなくなり、わざとよそよそしい態度で他人みたいな接し方をしているのだそうだ。 父親のことをHくんは「あの人」と呼ぶ。「オフクロはあの人の味方だから」。オフクロさんは息子のおまえの味方ではないの? 「あんまり、そうは思えない。あの人の味方の方が強い」。「オフクロ、あんまり好きじゃない」 彼は三人兄弟の長男である。この兄弟は気持ち悪いくらい仲良しのようだ。昼休みは携帯のメールをピコピコ、夜は電話で長話。長男が後継ぎということなのだろうけど、おまえがその気がないとしたら、弟が継ぐことになるわけ? 「そういうことですけど、弟も分からないし…。どうすればいいんですかね」 仕事を教えても、次の日にはもう忘れている。同じことがなかなか覚えられない。仕事の進め方をシミュレーションして次の仕事の準備をすることがまず難しい。教えているおれが悪いのか、おまえがやる気がないのか、どっちかだな? 「やる気がないんですかねぇ」 バック運転はミラーを見るだけだった。普通は、窓を開けて、顔を出すようにして前後を目視したり、ミラーを見たりしながらバック運転するものだ! 「はいっ…」。彼は窓を開けると、あとはミラーを見ながら、バックをしていった。 現場へ仕事に行く途中に時々立寄るコンビニがある。ふと気がついたのだが、レジの女性店員の対応や言葉遣いが彼にたいしては違っている。彼にだけ、友達みたいな言葉を使っているではないか! その日、なぜか彼だけ精算が遅く、あとから店を出てきた。「チョコ、もらいました」。二月十四日、バレンタインデーの朝だった。 アパートを選ぶにあたり、三、四カ所を見て回ったという。新築、オシャレな色彩、環境抜群、交通至便、独身者は彼だけ。「修業させてやってください」と言葉を強めて言っていた両親が一緒に見て回って決めた。Hくんの「修業」先の素敵(すてき)な住まいである。 Hくんの行く末と私たちの来し方についていろいろ考えさせられる「研修」が続く―。 (上毛新聞 2007年6月6日掲載) |