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◎心安き人間関係を築く よろずや余之助の持つもう一つの顔に、よろず相談引き受け処(どころ)という、少々古めかしい雰囲気を感じさせる相談場所がある。困り事や専門職に聞きたいのだが、気後れして少々足を運び難いという、主として中高年層の人たちのために開設されたものであり、遠慮などいらないから何でも気軽に相談にいらっしゃい、といった塩梅(あんばい)のところである。 時折「よろずや余之助には怖いものがないだろう」と、人は言うようだが、それは余之助が単なる物好きの集団ではなく、異業種専門家集団といわれているからであろうか。多少格好よい響きがないでもないが、そこはいたずら三昧(ざんまい)の青春期をともに過ごした梅淋塾の流れをくむ者たちのこと、彼らに模範的人物などという言葉はふさわしくないようだ。なれど、気に入った一つのことを三十年以上も続けていれば、誰でも人から専門家といわれるようになるものである。 それぞれが専門的能力を持った古き友達同士が集まると、極めて便利なものである。何ごとか困ったことがあっても、仲間うちで対処できてしまう。従って外部の専門家に頼る必要がほとんどないのだ。彼らの持つさまざまな能力を市民活動に生かしたのが、このよろず相談引き受け処である。建築、法律、税務、保険、金融から不動産、はては身の上相談まで、実に広範な相談を受ける。当然彼らは皆ボランティアである。 このようなさまざまな相談窓口は、各地の行政やその他各専門機関など、どこにでも確かにある。しかし余之助の手法はちょっと古いが、人情的である。昔、どこの町や村にでもあったあのよろず屋の、店のおやじと客たちの人間関係を再現しただけであり、特別なことでもない。 余之助では窓口の敷居を取り払い、心のふれ合いを念頭に、心安き人間関係を築きながら、問題解決に導く作業にあたる。要するに相談者の話をじっくり聞くことが重要であり、担当者は話を聞きながら、時折冗談も交えつつ相談にのるのである。従って相談場所も障子のある、落ちついた和室であり、当然コーヒーなど飲みつつ話を聞く。この様子をはたから見ると、まるで世間話に打ち興じているかのようだ。 この相談事業を通じて彼らがしみじみと感じるのは、本当の意味の相談事業とはいかなるものなのかということである。解決の方法を提示すれば、それで一件落着かというと、どうやらそうでもないようだ。人の話を脱線しながらも、上手に軌道修正しつつ辛抱強く聞くのは、確かに骨が折れる。しかしこれこそが一番大切なところであり、相談者が真に求めているところではなかろうか。これから迎えなければならない本格的高齢化社会には、心安く頼れる話し相手がますます必要になるのではないだろうか。 (上毛新聞 2007年6月5日掲載) |