視点 オピニオン21
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フード・アドバイザー 村木 日出光(桐生市宮本町)

【略歴】 札幌市生まれ。漫画家、テレビディレクター、放送作家を経験。食への関心を深め、桐生市に会社を設立して、お米のマヨネーズなどを販売している。

定食屋の課題

◎温かい物は温かくして

 「おふくろさんよ、おふくろさん…」。演歌の話ではないのです。ちまたで広がる「お袋の味」が売り物の、一膳(いちぜん)飯屋(昔懐かしい定食屋)が大人気である。そこで今回経営の違う三店舗を調べてみた。A店、B店は同一経営と間違えるほどすべてがよく似ている。C店は独自の展開、B店は後発で明らかにA店を真似(まね)ているようである。今回一カ月ほどかけ、食べ比べてみることにした。

 結論を先にいえば、コンビ二弁当より丸印、客層は意外と高齢者が多く、家族での夕食が目立った。核家族化が生んだ食の衰退と言えそうで、便利なのかもしれないが、若い家族が夕食団らんを定食屋で迎えている姿に驚いた。親子の絆(きずな)は丸いちゃぶ台で、はしをつつくことから始まる。本来の家庭の「お袋の味」は現代版定食屋で受け継がれていくのだろうか? ママの手作り料理はどこに行ったのでしょう。

 若いお母さんの中には、包丁を持つことを拒絶し、油の揚げ物は怖いと言って、冷凍食品の揚げ物をレンジで「チン」という人も。ママの味は「チン」の味! 大人の都合が子供たちに偏食を引き起こし、母親の料理の尊さを忘れていく子供たち。でもファミリーレストランのように現代版定食屋は認知され始めている。

 ちなみに三店とも食べたい物をチョイスでき、価格も六百―七百円払えばお好みで十分満たされる。しかし、社員食堂のような違和感、干上がった揚げ物や焼き物、コンセプトばかり売り物の経営、食べる側の気持ちに立っていないのが残念でならない。今後どう改善されていくのか。

 そんな中、C店が二カ月ほどで閉店になってしまった。ここは、なるべくしてなったと思う。ご飯も自動ボタンで、味噌(みそ)汁もボタンです。もう少しお客さまに愛情が必要だったのでは? 便利さばかりが招いた結果である。

 かなり昔になるが、東京・六本木交差点側に「六本木食堂」なる定食屋が大繁盛していた。この店には温かみがあった。一つ一つの料理が素朴ながらいつ食べても飽きない店であったと記憶している。また、東京・恵比寿には私が知る限り三十年以上も続く一膳飯屋がある。二十人ほどで満席になり、四六時中空いていることはない。何をもって「お袋の味」と定義するかが、今後、定食屋の多店舗展開の課題になりそうである。

 食卓を囲んで一日のことがらを面白おかしく話しながら、嫌いな物も怒られながら食べる家族の味を忘れ、食べたい物だけ、好きな物だけしか食べない定食屋での食事。確かに忙しい母親にとっては便利この上ないが、「お母さんのこれが一番」と言える、誇らしげな子供たちが少なくなってきている危機感を持っているのは私だけだろうか? その食のスタイルが子供たちに受け継がれていくことにもっと危機を感じる。

 私が田舎に帰ると必ずイカフライを大量に作って迎えてくれる母。何の変哲もないイカフライなのに母の作るフライは、どこで食べても勝るものがない。これが私にとっての「お袋の味」なのです。






(上毛新聞 2007年5月13日掲載)