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共愛学園前橋国際大国際社会学部長 大森 昭生(前橋市駒形町)

【略歴】 宮城県出身。東北学院大大学院博士課程在籍中の1996年に共愛学園入職。2003年から現職。県男女共同参画推進委員、前橋市社会教育委員などを務める。

父親の育児

◎社会全体で環境創出を

 しばらく前に、SMAPの草●剛さんが主演するテレビドラマを見ました。草●さん演じる成績優秀な銀行員は、ある日、小学生の娘を一人で育てなければいけない境遇に直面し、銀行を辞めてしまいます。このことは、本人にとっても厳しい決断ですが、銀行にとっても大変な損害です。そんなに優秀で、しかもコストをかけて育てた行員を失うわけですから。もしこのとき、彼の職場に働きながら育児もできる環境があったなら…。

 今、ファミリーフレンドリーな職場環境を創(つく)ろうと取り組みを始めている企業が増えています。社会的責任をまっとうすることで、自社の評価を高めたいという思いもあるでしょう。しかし、企業にとっての効果はそれだけではありません。前回(二月十四日付)、前々回(昨年十二月十四日付)にみてきたように、父親たちの意識は変わり始めています。これからは男性にとっても家庭と職場の両立が職業選択、職場選択の指針の一つになるでしょう。より優秀な人材に集まってもらおうとするなら、必要な取り組みなのです。さらに、自社で育てた社員に長くとどまってもらうことも企業の体力維持には欠かせません。また、社員の就業意欲の向上もとても大切なことです。加えて、例えば育児休業取得者や短時間勤務選択者などが増えることにより、業務の効率化やスキルの共有が可能となり、働き方を見直すことで社員の健康管理にも効果が生まれることでしょう。 

 これらの取り組みを支える行政施策にも期待したいところです。特に、育児休業取得時の賃金保障については、現在さまざまに議論されていますが、いずれにしても現在の四割のままでは低過ぎます。また、情報の提供について、例えば、妻が無業の場合や産休を取得している場合でも、夫は産後八週まで育休を取得できることなどは意外に知られていません。そして、なんといっても社会全体が父親の育児についてより広く認識し、父親が主体となって育児しやすい環境を創り出すことが必要でしょう。

 子育て真っ最中のお父さんたち、これからお父さんになる皆さん、後に続く人たちのためにも、ちょっとだけ勇気を出して、「今日は子どもが熱を出しているので早退したいのですが…」「もうすぐ出産なので育児休業を取らせてください」と、思いを職場で声にしてみませんか? そして、職場の先輩お父さん・お母さんにお願いします。若い父親たちが相談に来たら、「しっかりお父さんしてきなさい」と背中を押してあげてください。

 三回にわたって、父親の育児の現状や課題、意義について書かせていただきました。私自身の育休や育児体験もご紹介しましたが、実際は私よりパートナーの方が何倍も子育てを担ってくれています。それでも、私は、育児に単に「参加」するだけではなく、パートナーと互いに主体となって育児を「共有」したいと思っていますし、多くの同じ思いを持つ父親たちが、その思いを実現できる社会になることを願っています。

編注:●は弓ヘンに前の旧字体その下に刀





(上毛新聞 2007年4月16日掲載)