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◎未知への挑戦に必要 おとなはいつの時代も、子供たちのもつ好奇心を嫌がる。電気はなぜ明るいのかとか、どうして空は青いのかとか、なぜ…、どうして…と、答えられない質問の連続に疲れ切ったり、けがをしないうちに危険な探検ゴッコ遊びをやめさせなければならないような、煩わしい毎日の生活になるからである。 好奇心を失わされることなく育つ子供は、みずから投げ掛けた疑問の答えを見いだそうと努力する。未知のものへ向かって挑戦するのに必要な、読み書き、計算の基礎力を磨き、行動力のある感受性豊かな青年へと成長していく。 誰がいつごろから言い出したのか定かでないが、「子供たちに生きる力を与えよ!」と声高らかに掲げたころから、世間は公然と子供から好奇心を取り去ろうとし出したようである。「生きていくのに好奇心は邪魔になる。寄り道をするな。それは怠け者の口実にすぎない」と。子供たちの新しい世界を求める意志を萎(な)えさせ、将来へと連なる希望の芽を摘み取ろうとしているようにみえる。 昨年の十二月二十二日、新たな教育基本法が公布された。 日本を発展させるとともに、世界の平和と人類の福祉の向上に貢献する国民になってほしい。個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた大人になってほしい…と。 そういう人になるために、子供たちに学んでほしいと願うのである。 何にでも興味をもつ、義務教育に上がったばかりの新一年生に、教育基本法を読ませるようにしてあげたい。そして、どんな思いで、将来を担う子供たちのためにこの法律を作っていったのかを、知らせてあげることができればよいと思う。 所変わって、ここはブラジルのアラシャ。 馬を自在に操り、長ムチを使って牛群を追うアントニオはジョゼー、エレーナら三児の父である。彼は牧場で生まれて、牧場で育った生粋のカウボーイである。五千頭の牛を識別することができるが、字の読み書きはできない。 「ジョゼー、学校は楽しいか」と問いかける私。 「はい、セニョール」 「ジョゼー、読めるようになったか」 「はい、少しだけですが、読めるようになりました。大きくなったら町の学校で勉強したいです」 「エレーナ、先生は優しいか」 「はい、セニョール。とっても優しいです」 二カ月前にできたばかりの、二人だけのための小さな学校。真新しい一冊の教科書とノート。裸馬に跨(またが)った学校帰りの十二歳と八歳の兄妹。地平線の彼方まで広がる真っ青な空―。 子供たちは、親の温かい愛情に包まれながら育っていく。愛情に包まれていることを実感するからこそ、好奇心を携えて、未知の環境に乗り出していくことができる。 (上毛新聞 2007年4月14日掲載) |