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吾妻山岳会長 山崎 孝利(東吾妻町郷原)

【略歴】 中之条高卒。あがつま農業協同組合などに勤務後、現在は県自動車整備振興会吾妻支部事務局長。東吾妻町観光協会副会長。県自然保護指導員。

スロー登山

◎自然との対話も貴重

 山に出かけると他人のペースに合わせてしまい、つい無理をしてしまい、オーバーペースになってしまう経験はないだろうか。生活の中にジョギングなどを取り入れ、「継続」と「障害予防」をキーワードにしている人は多い。障害には疲労も入るが、張り切りすぎて長続きしないのは疲労が原因となっているからだ。

 スロー登山は、有酸素運動をうまく行い、急がず、あせらずゆったり、ゆっくり、美味(おいしい)物を食べ、スケジュールにしばられたピークハント(登頂)主義から解放される。スピードや効率を優先した現在、登山の主流とは対照的にマイペースで山に登り、山を楽しもうという新スタイル。ゆったりと山麓(ろく)の自然の中で過ごすことで新たな価値を見いだそうという考えで自分なりの目的、目標を立てて達成感を味わう。

 大自然は四季それぞれ動植物の営みと天候などそれぞれの山により異なるが、そこでしか味わえない独特な自然を持っている。

 長野県白馬村に数年前からトレッキング、スケッチ、サイクリングにと足しげく通っている。まず第一に温泉の調査をする。多くの温泉があり、源泉がそれぞれ違うのもうれしい。登山後のリフレッシュには最高と解釈し、アフターファイブに酔いしれる。安価な民宿、旅館、ペンションなど多くあり、シーズンオフには時間を見つけ出かける。景色の良い、利便性のある宿泊施設を探すのも胸弾む一瞬だ。

 一番の魅力は、ロケーションが素晴らしく、四季を問わず「とりこ」にする要素をいっぱい含んでいる温泉だ。風景は人生の生き方さえ変えそうだ。昨年だったか共同浴場で会った同じ年の人は、千葉県から妻と来て定住の地をここと定め、二年目を迎えて「良い所だ」と満足げに人生を語り始める。満面の笑みをタオルでぬぐい、湯船に寝転び満天の星が輝く中で語るその人から、人生の大きな夢を頂いた。人生の転換も大事な決断と考える。

 長い冬が過ぎ、明るい太陽が燦々(さんさん)と輝き、白馬村にもやっと春がきたことを知らせる。桜の花が咲き、松川(白馬三山を源とする川)沿いも人々でにぎわう。ライフワークの一つ、いつもの絵を描いていると一人の老人が絵の脇から離れようとせず、物静かに息子があの頂で遭難した旨を語り始めた。今でもあの山(白馬岳)を見ていると息子に会えるような気がして、この時季毎年来ると聞き、胸が熱くなった。

 山の楽しみは決して山頂だけでもないし、歩いた距離でもない。実はその過程にいっぱい詰まっているものだ。天候が良ければ草原に寝転び、草の香り、雲の流れ、風の漂いを味わっていると、感性はいろいろと想像を与えてくれる。目に見えるものの一方で、目を閉じていても感じるものもあるのではないか。高山に登るのもよし、低山でもよい。いろいろなルート、方法が人生と同じようにあるものだ。目標と信念をもって進むスロー登山。頑張らなくてもよい。継続することに大きな価値があると同時に自然との対話も貴重な要素だと思う。






(上毛新聞 2007年4月3日掲載)