視点 オピニオン21
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アートプランナー 梅津 宏規(前橋市野中町)

【略歴】 仏エクサンプロバンス美大研究課程を修了し、DNSEP(仏国家上級表現資格優秀賞)の学位取得。昨年から県美術クラブ(県画商組合)代表幹事。

想像力の育成

◎美術工程は人生の道程

 最近話題になっている「オーラの泉」という美輪明宏氏と江原啓之氏が出演するTV番組をご存じでしょうか。ゲスト一人を迎え、ゲストの「オーラ」や「前世」「守護霊」などを江原氏が霊視し、美輪氏とともにアドバイスをすることでゲストの素顔や人生に迫る番組です。この内容を信じる、信じないはさておいて、最近よくこのお二人から聞く言葉に「想像力」という言葉があります。いじめや自殺、交通事故、飲酒運転や耐震偽装問題、食品安全問題などさまざまな出来事が起こり、解決していかないのは、人々に想像力が不足しているからだと言います。

 長年、美術教育という現場にも携わる私は、まさにこの「想像力」こそ、すべてにとって、最も大切なことであると考え、その指導に従事してきましたが、さて皆さんは、絵を描いたり、物を創(つく)ることをどのようにとらえているでしょうか。

 私は、自らの体験や多くの「美術の考え」と照らし合わせ思うことは、すでに大方の完成図が決まっている塗り絵やキット工作は別として、自らテーマを考え、制作し完成させる美術の工程は、先の見えない「人生」の道程ととても似ている気がします。

 「絵を描くこと」それは「何かを伝えたい」または「自分を表現したい」と思う本能や意識の具現化です。人はまず、何を描くか想像します。そして描くイメージを決め、どうやって、どんな道具で描くかを決定します。描く過程の中で試行錯誤を繰り返し、時にはさまざまな失敗もします。「思ったような色が出ない」「うまく形にならない」「想像していたイメージと違う」など。

 でもその失敗を想像力で克服し、時には次なる課題を心に刻みながら、その問題を解決した後には、大きな喜びと「それでもできた」という達成感が感動とともに経験として残っていきます。さらに絵の完成後には、苦労して描いた作品が展示され、たくさんの人に見てもらうことで他者の評価を得、自分本位の満足感だけではなく、第三者の意見に耳を傾けることを学びます。作品の出来栄えを自ら検証し客観的に評価することで、反省を糧に次の絵に繋(つな)げていくわけです。

 絵を「何枚も描く」ということは、何度も「生きる」ということを繰り返し経験することにイメージが重なります。そしてそこには「想像力」が問題解決の重要な鍵になるのではないでしょうか。多くの偉大な芸術作品に触れた時、たくさんの人が感動し、胸打たれる思いをするのは、その壮絶な「生きる」ことを深く考え繰り返しながら完成させた、目に見えない作家の生きざまに感動しているからなのかもしれません。

 今、改正教育基本法についての論議が多くなされていますが、この美術を通しての「想像力の育成」は教育基本法の中では取り上げられていないようです。美術は付加価値であり、絶対価値としてとらえられていないからなのかもしれません。教育に限らず、日本の多くの政策が同様であることを見れば、現代日本を象徴していることなのかもしれません。まさに「想像力」が欠如しているゆえんなのでしょうか。






(上毛新聞 2007年3月20日掲載)