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キリンビール常務 松沢幸一(さいたま市浦和区)

【略歴】 千代田町出身。館林高、北大農学部修士課程修了。1973年にキリンビール入社。キリンヨーロッパ社長、北陸工場長、生産統轄部長を経て、昨年3月から現職。農学博士。

女性の仕事と会社の活力

◎一層の条件整備が必要

 二月中旬の土曜日、都内で「キリン・ウィメンズネットワーク設立総会」という集会が開催された。わが社女性社員の半数近く、六百人余が全国の事業所から集まった。中には、会場に設けた臨時託児所に子供を預け参加してくれた人もいる。社長をはじめ役員、部門長、全国の事業所長も参加した。

 この集会は、会社の「ポジティブ・アクション」の取り組みの第一弾として企画された。企業の活力・競争力を上げるために、多様な人材が活躍し能力を十分に発揮できる場をつくり、活躍を阻害している要因を取り除こう、という取り組みである。

 わが社では社員の約20%が女性である。平均勤続年数や育児休業制度の取得率は世間平均を超えているものの、管理職比率、入社五年目あたりで離職のピークがあるなど、「女性社員が存分に活躍できている」と胸を張れる状況にはない。女性社員の力が十分に活用されていないという反省が、今回の取り組みを始めた大きな動機である。

 開会前から会場は華やかな雰囲気の中にも、六百人の女性が発する凄(すご)い熱気で溢(あふ)れていた。開催趣旨と会社取り組み方針の説明後、日本IBM取締役の内永ゆか子氏による同社の先進的な取り組み事例についての講演があった。三十数年にわたるご自身の経験を踏まえてのお話は迫力と説得力があった。特に、女性もやると決めたからには「一度馬に乗ったら下りないで」「目標を諦(あきら)めず、チャンスが来たら逃げないで」というアピールは、参加者の気持ちを揺るがし奮い立たせた。続いて女性社員を代表して数人が、子育てと仕事の両立、勤務地・職種・役職の変化対応についての悩みや苦労を熱く語った。他の幾人かのビデオによる事例紹介が続き、会場内は一層大きな共感に包まれた。

 これだけ多くの女性社員が高い意識をもって、会社を変える努力をしている。経営陣の一人として深く感激したが、同時に大きな責任も感じた。どうしたら女性が安心して結婚・子育てをしながら、持てる力を発揮して働き続けられるか、キャリア形成を図れるか、突きつけられた課題はとても大きい。育児休業や託児所など厚生面だけでなく、仕事を適切に評価する仕組み、メンタル相談、研修教育など、人事制度や諸施策も抜本的に見直す必要がある。また同時に、男性社員の働き方や社内全体の意識も変えていかねばならない。

 群馬では「かかあ天下」の言葉が示すように、女性が外で働くことに前向きの風土がある。住居や通勤条件などの環境条件も比較的恵まれている。県内にある当社の三つの研究所と医薬工場でも、約二百人の女性社員が働いており、その定着率も非常に高い。今回の取り組みが実際に生きて、社員の持てる力がさらに発揮されるようになれば素晴らしい。群馬がその先駆けとなり、会社全体の動きを加速する原動力になることも期待したい。そうなれば、会社だけでなく社会もそのメリットを享受できるはずだ。






(上毛新聞 2007年3月18日掲載)