視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
草津温泉フットボールクラブ取締役 鳥谷部 史(東京都大田区)

【略歴】 慶応大経済学部卒。野村総合研究所でコンサルティング事業本部事業企画室長などを歴任。現在は同本部経営コンサルティング部長も務める。東京都生まれ。

ザスパ草津の方向性

◎企業戦略、4つの視点

 今回は、私個人のザスパ草津に対する熱い思いには目をつぶって、経営コンサルタントとしての冷静な立場から企業としてのザスパ草津、いや、それを運営する株式会社草津温泉フットボールクラブ(以下、KFCと略す)を解題とし、方向感を書いてみたい。

 企業戦略は、しばしば次の四つの視点から検討される。企業価値が計られる財務的な成果((1)財務の視点)、財務的成果を直接もたらす顧客の存在((2)顧客の視点)、その顧客に対応する社内業務プロセスの完成度((3)プロセスの視点)、そのプロセスを実行する社員の成熟度((4)学習と成長の視点)である。

 KFCは、わずか四歳の会社である。しかし、チームは待ったなしで動いている。学習とプロセスは、走りながらつくらざるを得ない。実は大西忠生前社長も人づくりに最も腐心されていた。幸いザスパ草津は多くのお客さまに見られている。少ない社員で対応せざるを得ないために、多くの失敗もあり、クレームも頂ちょう戴 だいする。しかし、それが学習のポイントになり、業務の質を高めさせていただく糧になっている。満足してはいけないが、営業、事業、運営、広報、経理のすべての部門で以前と比較して数段高いレベルになってきている。

 ところでKFCが収入を上げさせていただいているお客さまは誰か? 最も目立つのは試合であり、入場料収入が第一に思い当たるであろう。しかし、実際にはスポンサーさまからの広告料収入が半分を占め、入場料収入は全体の二割である。残りの大半はJリーグからの分配金(放送権料と商品化権料)である。ただし、スポンサードはチームの人気によるところが大きく、その一つの指標が入場者数であるため、入場料収入と広告料収入は表裏一体である。チームの人気が高まり、入場されるお客さまが増加し、スポンサードが増加するという正のスパイラルを目指したい。

 そして財務の視点である。多くの企業では、投資を含め、原料購入など支払対応工程が収入に先行する。KFCの支出は人件費と試合運営費が大半で、ほぼ毎月一定している。一方、収入は年初にスポンサー収入とシーズンチケット収入が入るため、開幕時点で年間収入の六割近くが決まる。

 Jリーグ分配金もほぼ読めている。収入対応工程が先なのである。経営用語で「入るをはかって出ずるを制す」という言葉があるが、シーズン中の当日券入場料、グッズ販売収入はあるが、年間での「はかれる」割合は低い。だからこそ、経営面からは営業部隊がシーズンオフのスーパースターであり、それに加えたシーズンチケットの売り上げが、一年間のチーム編成を決定付ける。

 主将の佐藤正美、副主将の櫻田和樹、ゲームキャプテンのチカと同様、営業の山下泰崇、岸田啓作というスーパースターもいることも覚えていただければ幸いであり、まだシーズンチケットが販売されているので、皆さまにご購入いただければ、本稿の一つの目的到達と思っている。






(上毛新聞 2007年3月10日掲載)