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◎危機的状況から脱却を 皆さんは「川丈十三里」という言葉をお聞きになったことがありますか。これは神流川の長さのことを昔の人たちが表した言葉です。新町(現高崎市)を流れる利根川との合流地点から上流約十三里(約五十一キロ)が神流川の全長という意味です。普通、丈というのは高さを表す言葉だと思いますが、昔の人たちは高い所から流れているので、この言葉を使用したのだと思います。 この上流部の神流町、上野村の一町一村を「奧多野」といっておりますが、奧多野という地名はありません。多野郡の奧にあるものですから、このように呼ばれています。この一町一村は、神流川の本支流を中心として集落が点在しております。 上野村の高台に幾つかの集落がありますが、ほとんどが昔の十石街道の本通りだったようです。この高台の平らな所からは縄文土器や黒曜石のやじりなどが出土しました。四十数年前、「群馬のチベット」やら「陸の孤島」といわれた上野村も、数千年前から住民がいたということです。それも、この神流川があったからだと思います。 しかし、その神流川も幾多の危機にさらされてきました。私の知る限りでも、村人の生活が向上するに従い、生活雑廃水や消毒液、除草剤などが川に流入することによって、カジカという魚が全滅しました。その後、放流が行われ、多少、カジカの姿が見えるものの、産卵する場所がありません。なぜなら、林道の開発や作業道の掘削により、土砂が流入し、川床は産卵するのに必要な直径十五センチ以上の石が少ないのです。 最近、台風や大水により改善されつつありますが、昔のような淵(ふち)はこれからはできないと思います。なぜなら、いま上野村には二つの堰えん堤ていがありますが、十数年前の台風で堰堤の水の排出口が材木などで詰まり、そこに土砂が詰まって上流部の流れが緩やかになっていました。このため、台風や大水のときに淵のできる構造の場所は、いったんは淵になりますが、水位が下がるに従い、急に流れが弱くなるので、砂やバラスが川床の低い所にたまってしまいます。 それでも魚たちは、春になるとハヨ(ウグイ)やカジカたち、秋にはヤマメやイワナたちが一生懸命、産卵します。しかし、その魚たちもなかなか釣り人を満足させてはくれません。いまは漁具もよくなり、釣り人も上手になりました。そのうえ、魚の絶対数より釣り人の方が多いのです。 昨年、その魚たちの中のハヨに危機がやってきました。原因はカワウの飛来です。ほかの河川では、かなり前から飛来していると聞いていますが、神流川では水量が少ない上に淵も少ないので、ほとんどのハヨは食べられてしまい、年越しができない状態でした。 三月の渓流釣りの解禁、五月のアユの放流を前に、村や漁協なども頭を痛めていると思います。観光立村・上野で神流川がこの状態では、観光客に影響します。脱却を図る手だてはないものでしょうか。 頑張れ! 神流川、よみがえれ! 神流川。 (上毛新聞 2007年2月21日掲載) |