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◎地域で「夢」の実現を 二〇〇六年、夏の甲子園。全国高校野球選手権大会の早稲田実業と駒大苫小牧の決勝戦は、延長十五回でも決着がつかず、引き分け再試合。翌日、早稲田実業が4対3で勝った。この試合で、早稲田実業の斎藤佑樹投手、駒大苫小牧の田中将大投手の投げ合いは球史に残る名勝負となった。特に、二人のひたむきな試合態度は高校生スポーツのあるべき姿を映し出し、新たな高校野球ファンを生み出したようである。 ところで、斎藤選手も田中選手もいわゆる野球留学生で、地元の高校生ではない。高校野球では甲子園常連の名門校があり、毎年すばらしい活躍をしているが、全国から競技成績の優秀な中学生を獲得している学校が多いと聞く。日本高野連の調査によると、昨年の地方大会登録選手のうち、県外出身者が全体の4%を占めている。部員の六割が県外出身者という強豪校もあるという。全国各地から野球エリートが集まり、親元を離れて寮生活等をしながら練習に励み、「甲子園」という夢を追っているのであろう。 さて、フェンシングにおいても、強豪校へのフェンシング留学はある。全国制覇や日本代表、国際試合への出場という夢を抱くフェンサーが強豪校に集まるのも、当然のことである。しかし、人間としてまだまだ発展途上の高校生が、親元を離れて競技漬けともいえるような生活でいいのか、疑問を感じる。人間に対する深い理解が育つ高校時代に、親が子供に語るべきことや身をもって示すことが、たくさんあるのではないか。思うような結果が出せず、思い悩む時こそ、母の優しさや家族の温かな計らいが心を癒やすのではないか。スポーツの優秀選手に、競技力を育成するだけでなく、人間としての成長も期待したいと思うのは、私だけではないと思う。 本県では、県内に四つのフェンシングクラブ(以下、FC)があり、小中学生にフェンシング指導をしている。そして、沼田FCで学んだ子供たちには、沼田高、沼田女子高があり、前橋、高崎FCの子供たちには、前橋育英高、高崎商科大附属高がある。太田FCの子供も前橋までなら通学可能な範囲である。地元で小学校から高校まで一貫指導をして、全国トップレベルの競技力を維持している。 今夏、高崎商科大附属高がインターハイ優勝を勝ち取ったが、選手全員、小学校から県内フェンシングクラブで育てた選手たちである。フェンシングは競技人口が少ないので、効率よく選手を育成するという努力が実を結び、このような地元一貫指導が確立された。親元で生活し、親の励ましを受けながら夢を実現させたい、と考えている。 早実の斎藤投手は、太田市出身と聞いている。彼の人柄は高校野球のイメージを大きく変えた。親元を離れても文武両道を志し、見事な人格を築き上げた。スポーツ留学も本人の心掛けと親の指導次第か。ご両親に敬意を表したい。 (上毛新聞 2007年2月20日掲載) |