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◎似て非なる伝統楽器 二〇〇二年より学校教育に和楽器が導入されるようになって、はや五年。小中学校からの箏曲体験教室の依頼は年々増え続けており、私も認定NPO法人三曲合奏研究グループの一員として出張教室を行っている。ようやく教育現場にも日本の文化への理解の兆しが見えてきたようだ。 体験教室では三曲(箏・三味線・尺八)合奏による邦楽鑑賞、各楽器の説明、そして実際にそれぞれの楽器に触れてもらって奏法などを指導する。和楽器のなかでも箏は比較的ポピュラーな楽器と思われるが、初めて見る児童生徒がほとんどで、やはり一般的な楽器ではないのだろう。 そこで「箏」という楽器について少し説明しておこう。 箏は奈良時代に中国から伝来した楽器で、現在は雅楽用の楽箏(がくそう)、筑紫箏(つくしごと)、そして俗箏(ぞくそう)がある。一般的に私たちが使用しているのはこの俗箏というもので、一六〇〇年代半ばに八橋検校(やつはしけんぎょう)が筑紫箏に改良を加えてできた。 材質は桐。楽器は竜に見立てられ、各部に竜頭(りゅうとう)、竜尾(りゅうび)、竜眼(りゅうがん)、竜角(りゅうかく)、竜甲(りゅうこう)、また磯などの名称がついている。糸は十三本、楽器に向かって遠い方から手前に一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、斗(と)、為(い)、巾(きん)の糸と呼ぶ。 調律は「琴柱(ことじ)」というブリッジをたて、それを動かして行う。「琴爪(ことづめ)」という爪を右手の親指、人さし指、中指にはめて奏する。左手は弦を押すことによって音を変化させたり、また装飾的音色をつくったりする。 では、「箏」と「琴」の違いはご存じだろうか。 いずれも「こと」と読む。「こと」は日本の弦楽器の総称であり、正確には「箏(そう)のこと」「琴(きん)のこと」と呼ばれた。実はこの二つは全く異なる楽器である。大きな違いは琴柱を用いるか否か。「箏」は琴柱を用いるが、「琴」は七弦琴(しちげんきん)ともいい、琴柱は用いず勘所を押さえて音をつくる。 「箏」は近世以降に、単に「こと」と呼ばれるようになったが、当用漢字、現在の常用漢字にも「箏」の字は入っていないため「琴」の字があてられるようになった。専門家の提言により、最近ではいわゆる伝統音楽における「こと」には「箏」の字を用いることが浸透してきたが、ややこしい話である。 便宜的に「琴」の字が使われてきたため、私たちはどちらの漢字を使用しても「こと」は「箏」だと解釈しているが、その違いを知れば、私たちの弾く「こと」には「箏」の字を使うべきなのだと再認識されてくるだろう。 何事もまずは自分自身で体験することが大切で、体験したことによって楽器への理解、興味は大きく変わってくる。ぜひともこうしたNPOの活動を大いに利用してほしい。邦楽を授業として継続的に取り入れることにはまだまだ壁がありそうだが、今は体験学習を通して児童生徒たちの好奇心に満ちた真剣なまなざしに、邦楽の明るい未来を期待している。 (上毛新聞 2007年2月16日掲載) |