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◎特区導入で文化立市を フランス・パリのマレ地区に十七世紀に建てられた壮麗な個人邸宅を修復、改装し、今から二十年前に開館した国立ピカソ美術館をご存じでしょうか。その美術館はピカソの死後、「作品による相続物納法」という文化産業国家フランスならではの法律によって、フランス政府に作品が物納されたことで開館しました。今では、世界中からたくさんの人々が訪れ、それまで時代に取り残されたように活気のなかったこのマレ地区は、今ではパリで最も活気のある地域の一つに生まれ変わったのです。 そして対照的に、日本では約十年前、写真家・奥村森氏の父であり二十世紀の日本を代表する日本画家・奥村土牛にまつわる話を思い出します。 土牛の死後、ピカソのケースのような物納による相続税が不可能な日本では、奥村森氏に残された遺作には莫大(ばくだい)な相続税がかかり、苦慮のため、美術館等に寄付できなかった多くの作品を「燃やさざるを得なかった」という遺族の衝撃的な告白がニュースになりました。両国のこの差はいったい何なのでしょうか。 かねてからアートと産業、アートによる街づくりに興味を持つ私としては、この奥村土牛作品焼却という事実に深く傷つき、時代の責任を逸した国の失態に、とても落胆したものです。 以前から群馬、特に公立美術館を持たない日本で唯一の県庁所在地である前橋が、活気あふれる文化の薫り高い街になることを期待し、私はほぼ妄想的に、平成十五年から施行されている「構造改革特区」による街づくりができないものか、と勝手に思ってきました。 それは、特定美術品の非課税および相続に伴う「作品による相続物納法」の実現です。前橋独自の税制の導入をベースにつくり上げる文化立市です。全国には現在、奥村森氏のような立場に置かれている方や、貴重な作品を多数収蔵される方々がおり、死後の相続に頭を痛めている個人や法人がたくさん存在しているのではないか、と思うのです。 そんな方々と作品を救済するとともに、それらの作品によるさまざまな活用法があるはずです。税務的な優遇措置により、これに該当する個人や法人を誘致し、前橋の住民として受け入れることで、産業や個人消費の向上、美術館や関連施設による観光産業が生まれ、活性化されるのではないでしょうか。そして、それらを核にした文化の薫り高い美しい街並みや景観の整備により、国内有数の魅力的な街にならないか―と。まったくの幻想かもしれません。しかし、まんざら実現不可能な夢物語ではないのではないか、と思うのです。 夢のある街づくりを想像し、具現化策を練って施策につなげることは、世界中のあこがれの都市が、長い歴史を積み重ねて具現化してきたプロセスと同じなのではと思います。不可能を可能にする、そんな街づくりを、ただただ願うばかりです。 さてさて、こんな私の妄想を現実的に可能にする方法をひらめき、教えてくれるような知恵者や賛同者はいらっしゃらないものでしょうか。 (上毛新聞 2007年2月4日掲載) |