視点 オピニオン21
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群馬大社会情報学部教授 森谷 健さん(前橋市鳥取町)

【略歴】 同志社大卒、関西大大学院修了。2003年から現職。専門は地域社会学・地域情報論。観音山ファミリーパークで活動するNPO法人KFP友の会の理事長。

笠懸公民タイムス

◎情報の共有に住民の手

 「笠懸公民タイムス」(以下「タイムス」)をご存じでしょうか。かつて笠懸村・町(現みどり市)の笠懸公民館の館報として発行されていた新聞です。公民館の新聞ですから、社会教育の分野では全国的に注目されてきたようです。

 私には、「タイムス」の特徴は三点にまとめられるように思います。第一点は、住民の方々が新聞の取材・編集にかかわってこられた点です。公民館の新聞というと、公民館職員の方が作られているように思われますが、住民の方が、編集委員会などを構成して発刊してきました。

 第二点は、扱う話題やニュースの幅広さです。公民館行事のお知らせや公民館で活動している各種サークルの活動報告はもちろんのこと、村・町の出来事や村・町行政についての記事など、いわば地域づくり全般に関する記事が紙面に登場します。

 第三点は、公費で発刊されていたことです。村・町の行政に「もの申す」記事も登場するわけですが、村・町当局は予算を付け続けました。

 私の専門分野からすれば、住民の方々が新聞の取材・編集にかかわってこられた点に関心が向きます。「タイムス」は昭和二十四(一九四九)年一月に創刊され、昨年三月のみどり市の誕生とともに廃刊となりましたから、実に五十七年間にわたり、住民による取材・編集が続いたことになります。その間、何回か「廃刊」がありましたが、そのたびに復活してきました。その復活の背景にも、住民の方々の努力があったことでしょう。

 どんなお気持ちで編集に携わってこられたかを知るために、編集委員をなさった方々にアンケートをお願いしました。編集長だった方々にもインタビューを行いました。その中で、笠懸出身の方や、結婚や転居を契機に笠懸に来られた方、農作業に追われながら編集をした方や子育ての最中に取材に駆け回った方など、さまざまな方々が異口同音に語っておられます。

 「タイムス」にかかわることで、笠懸をより深く知ることができた、住民と行政の関係を見ることができた、笠懸の地域づくりを考えるきっかけとなった。そして、住民の力のすばらしさを体感した。

 戦後間もない時代、まだメディアの数が少ない時に誕生した「タイムス」は情報共有手段として村・町民にとって大きな働きをしたことは十分に推測することができます。それと同時に、取材・編集に携わった一人一人の人生にとっても、かけがえのない存在となっていたようです。

 「タイムス」の廃刊はみどり市の誕生と期を同じくしていますが、廃刊の理由を私は詳細に把握しているわけではありません。「タイムス」から離れた一般論として、地域社会に根付き、生活の営みから生まれてきた地域社会への思いや取り組みが、合併という行政の枠の変更によって消えてしまうのは残念です。むしろ、それぞれの思いや取り組みを輝かせるような合併であってほしいと思います。






(上毛新聞 2007年2月3日掲載)