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◎地域だけでは不可能 群馬県は「富岡製糸場と絹産業遺産群 日本産業革命の原点」を世界遺産にするための活動を行っていますが、百三十年前に建てられた煉瓦(れんが)造りの建物が良い状態で残っていたことは奇跡であり、本県にとっての誇りだといえます。高度成長期には、明治以降に建てられた多くの貴重な建築物や構造物が壊されてきました。近年やっと、近代化遺産という考え方が定義されるようになって価値観も変化してきており、保存する機運も高まってきています。また、それらが観光資源としての価値を持っているという考え方になってきたのも一因と考えられます。 しかし、これらの考え方が、すべての地域や住民に浸透しているかというと、まだまだだと言わざるを得ません。浅間山ミュージアムは、こんな忘れ去られようとしている地域の歴史や近代化遺産を資料収集や勉強会、インターネット上を通じて多くの人に知ってもらいたいと考えています。本年度は浅間北ろくの地域に残る近代化遺産として、ろう石山とろう石高炉を取り上げました。 ろう石とは溶岩と凝灰岩類が熱水変質した白い色の鉱物のことです。中に含まれるアルミの原料を戦前の昭和十八年ごろから軍事物資として採掘し、戦後は昭和三十一年から四十一年まで、耐火煉瓦の原材料として現地に耐火煉瓦製で高さ十四メートルのトックリ形の焼成炉を二基建設し、精錬を行っておりました。そして五十年近くたつ現在、その焼成炉は朽ち果てて壊れることもなく、村人も訪れなくなった山奥にひっそりとたたずんでいます。その姿はまさに歴史のモニュメントであり、この地域の歴史を物語る近代化遺産と呼んでもおかしくないものです。 しかし、この焼成炉を保存整備しようという動きはなかなか地元からは聞こえませんし、あまり関心も示されていないのが現状です。実際に保存・整備するのは、お金のかかることが一番のネックになってしまうことは事実で、日本全国で同じような事例があると考えられます。世界遺産に登録しようとする建造物がある一方で、朽ち果てる運命の建造物があるのも現実なのです。 近代化遺産や地域遺産の保存の取り組みは地域だけでは不可能なことです。私たちも情報として発信することはできても、それ以上、具体的な保存活動はなかなか難しいのが事実で、歯がゆい思いです。それを踏まえ、せめて地域の子供たちにその目で見て記憶にとどめていてもらいたいと願っています。 ろう石高炉の詳しい情報は佐藤正次氏のホームページ(http://www.geocities.jp/gunmakaze/column.html)に詳しく掲載されています。 (上毛新聞 2007年2月1日掲載) |