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◎「光と影」の両面知って 「楽天市場で肉屋さんをやってるんだって。ところで、その市場、どこにあるの?」。赤城牛を扱う精肉店を楽天市場に出店して六年になるが、当初は知人や親せきに「楽天市場」の説明をするにも一苦労だった。 一九九七年にわずか十三店舗で産声を上げた楽天市場は、年々スケールを拡大し、いまや一万八千を超える店舗が軒を連ねる巨大マーケットに成長した。この背景には、プロ野球参入による知名度のアップをはじめ、「お取り寄せブーム」に代表されるインターネット通販の普及、事業者たちの意欲高揚などが挙げられるだろう。 「一日に五千個完売のチーズケーキ」や「月商一億円のワイン専門店」など、現実の世界では到底あり得ないような事例が数多く生まれる楽天市場。かくいう当店、ジャストミートも「成功店舗」の一つとされているようで、新聞や雑誌で取り上げられることも多く、最近では各地のセミナーや講演会に呼ばれることも一段と増えた。 では、楽天市場に店を構えさえすれば客が列をなし、商品は飛ぶように売れるのか。商売はそれほど単純ではなく、世の中は甘くない。私の経験則でいえば、仮に新規参入が十店舗あったとして、二年、三年と継続できる店は一、二軒だろう。精肉ジャンルだけ見ても、この数年で店舗数は三倍になったが、見なれた顔ぶれは数えるほど。ほとんどが新店舗だ。一年とたたず、撤退する理由も多々あるだろう。が、ほとんどの場合は、予想していた以上に手間のかかるインターネット通販の舞台裏と、計画通りに伸びない売り上げ―の二点が原因だ。 想像してほしい。一般的な企業がインターネット通販を始めるとして、先々どうなるか分からない分野に人も金も割けないから、担当者は一人だけ。それも「彼はキーボードが速く打てるから」程度の理由で選ばれる。培ってきた表計算やワープロの知識は役に立たず、まったく畑違いの画像処理やコンピューター言語のHTMLと格闘しながら商品ページをつくり、メールで来る客の問い合わせに対応し、販売後の商品発送まで自分で行う。 しかも、頑張っている彼に対する社内の評価は「あいつは一日中、モニターの前に座って遊んでいる」「デジカメと商品を持っては、社内をうろうろしてる」などと低い。冗談のように聞こえるが、多くのインターネット店舗の担当者が語る本当の話だ。そして、低迷する売り上げ。入荷した品を陳列するだけで商売になる実店舗と違い、インターネットでは商品ページをつくって掲載しなければ、物は売れない。前述した素人の担当者では、一日に数ページの作成がやっとだろう。 そんな彼が仕事のこつをつかんで業務の効率化が進み、掲載商品の数も増えて、店が客にやっと認知された一年後。大抵は、ここでインターネット通販からの撤退を社内で決定する。とかく派手な部分がクローズアップされがちな業界だが、実際には地味で、ときに忍耐も必要とされる。これから参入を計画している方にはぜひ、「光と影」の両面を知った上で判断を下してほしい。 (上毛新聞 2007年1月27日掲載) |