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◎共通する志や徳の高さ 伝統ある上毛かるたに「心の燈台(とうだい) 内村鑑三」とうたわれる彼は、明治の時代に英文による書物を著した。邦題は『代表的日本人』である。 彼はそこに西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人の五人を挙げている。よく知られた人たちで説明は不要かと思うが、鷹山についてのみ触れたい。 J・F・ケネディがアメリカ大統領に就任したときである。こんなエピソードが伝わっている。日本人の記者が、日本人で尊敬する人(政治家?)はいますか、と尋ねた。ケネディは答えた。「上杉鷹山」。 行財政改革というと今でも鷹山の名が登場するのだが、彼がなしたことで見逃してならないのは「産業改革の目的の中心に、家臣を有徳な人間に育てることを置いた」点である。 「為(な)せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり」の言葉が意識改革に対する強い意志を示している。具体的には藩校・興譲館の再興、郷村頭取と郡奉行の人事改革、教導出役の設置等に見られる。 ではなぜ、ケネディは鷹山のことを知っていたのか。それは内村の本書を読んでいたからだろうといわれている。彼の著作の影響がいかに大きかったことか。 ときに、西施の顰(ひそ)みに倣って私の代表的日本人を、昭和という時代に少しでも生きたという条件で、五人挙げてみたい(敬称略)。言うまでもなく浅学の暴挙である。 緒方貞子、小沢征爾、中勘助、渋沢栄一、武者小路実篤「老婆の詩」の老婆。 緒方は国連難民高等弁務官等を歴任する中で、人道的活動を中心に置き、尊敬を集める。 小沢は世界的指揮者だが、それは結果である。青年のころ、スクーターで大陸を駆け、ブザンソン国際指揮者コンクールに挑んだ志の高さや、今の多忙の中で若い人たちを積極的に育てていることに頭が下がる。 中は小説『銀の匙(さじ)』一書をもってしても脱帽するが、文壇に交わらず孤高を守った姿勢に美学を見る。 渋沢は天保生まれだが、昭和六年まで生きた。彼は数多の企業を創(つく)り育成した近代経済の鼻祖である。だが、いたずらに金もうけに走らなかった。ある小銀行ができるとき揮毫(きごう)を頼まれたが、そこに記したのは「道徳銀行」の文字だった。その扁額(へんがく)を見て、しばし私は棒立ちになったのを記憶している。この崇高な志に現代人は反省させられることが多くないだろうか。 実篤の「老婆の詩」の彼女は「百姓の化身のような」人である。こういう人が尊敬されない世の中は虚構に近いと思う。 ここに登場した人物たちに共通するのは志や徳の高さである。成果主義だとか何十億稼いだとかいう尺度では測れないでっかさを内包した人たちである。 (上毛新聞 2007年1月7日掲載) |