視点 オピニオン21 |
■raijinトップ ■上毛新聞ニュース |
|
|
◎日本文化もっと大切に デパートやスーパーへ行くと、ついついお酒のコーナーへ足を延ばしてしまいます。ニヤニヤしながら、いろいろなお酒を眺め、味など想像したりして楽しむのです。それが最近、楽しいはずがイライラするようになりました。ラベルに、あまりに低俗といってもいい筆文字が使われるようになったからです。これは文字のうまいとか下手の話ではありませんので、お間違いありませんように…。 うまいとは言えない文字といえば、かつて野口英世にあてた母シカの手紙に感動したことがあります。外国に暮らすわが子に向け、囲い炉ろ裏りの灰に書いて習い覚えた文字。初めて筆を持ったようなたどたどしい文字の一つ一つが、かえって多くを訴えておりました。子を思う純粋な母の心に打たれた英世は、涙の中にこれを読んだといわれています。 文字には長い歴史があります。数千年前、中国に生まれた象形文字から、時代とともにさまざまな変遷をたどり、今日に至っております。特に筆を使うようになってからの文字の表現は意思伝達ばかりでなく、美術、あるいは芸術の域にまで発達したといえるでしょう。それはまた、世界に誇る東洋の、日本の文化と思うのですがいかがでしょうか。ところが、いつのまにか家から硯すずりや墨や筆がなくなり、代わってパソコンがどの家にもあるようになり、書くという行為さえ少なくなってしまいました。 書には個性や品格が表れます。書を見れば、作者の年齢も性別も、ときには性格までも想像できます。そこで、お酒のラベルですが、いくら予算がないからといって筆文字なら何でもいいとは言えないと思うのです。パソコンから拾った文字を、書を知らないデザイナーがチョコチョコごまかしたとしても品位が下がるだけです。昨今のように、でたらめな書が増えてきては美観を損ねます。裸の写真より子供の教育によくないと思うのですが…。 書を分からないとおっしゃる方、筆文字を人に例えてみたらいかがでしょう。かわいい、怖い、きれい、汚い。乱暴、幼稚。優しい…などなど。好き嫌いでも結構です。それぞれの感性で見て、身近に感じていただきたいのです。良い書は心を豊かにしてくれます。作者の心が書を通じて見る人に訴えるのです。 「美しい国へ」と日本国の首相が言います。昨年、東京で日中の国宝級の書の展覧会が開かれました。どこにそれほど「書」のファンがいたのか、連日行列のできる盛況ぶりには驚きました。マスコミで宣伝すれば、見過ごすわけにはまいらぬとばかり、猫も杓しゃくし子も押しかけてきたのでしょうか。そんな世相の裏側で、筆を持つ人は確実に減り続けています。 日本の美しい山川草木は、豊かに四季の移ろいを生み、そこに育はぐくまれた日本人の感性、価値観。それを忘れてはならないと思うのです。外国の文化を取り入れるのも結構と思いますが、急いだそれは借り物にすぎません。長い歴史のある日本の文化を、日本の自然とともに、もっと大切にしたいと思うのですが…。 (上毛新聞 2007年1月4日掲載) |