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◎産業や経営の重要な鍵 この十月初旬、多少曇りがちながらとても気持ちのいい潮風がそよぐ中、高松港からチャーターされた小さなジェットフェリーに乗って、ある小さな島に行きました。 島に近づくと、目の前にはまるで私が学生時代にアートを学ぶために七年間過ごした南仏にあるような真っ白なボートハウス。そこは近年、その活動内容が世界的な話題となっている瀬戸内に浮かぶ島、香川県直島の港です。現在開催されている「直島スタンダード2」という展覧会のレセプションに招待された時のことです。 直島は約二十年前に過疎化していく小さな島を現代美術の力を借りながら、芸術と街、社会と経済との関係を島と企業、作家とそこに住む人々が一体となって活性化に取り組み、着実に成果を挙げている場所です。 このイタリアルネサンスにおけるメディチ家のような存在が教育関係の書籍出版で知られる企業オーナーなのです。 私が今から二十五年ほど前にフランスの芸術大学で学んだ「ミューゼオロジー」、つまり美術館と地域社会とのかかわりについて研究された実践理論をそのまま具現化している驚くべき事例です。 この展覧会には、草間彌生や千住博、大竹伸朗、川俣正、杉本博、須田悦弘、妹島和世+西沢立衛など世界的に活躍する作家たちが参加し、下仁田町在住の上原三千代もこれに出品参加しています。 日本ではアートは今なお特殊分野であり、情操教育、または生涯学習としての趣味の領域だったり、嗜好(しこう)品としての役割だったりしますが、実は私たちの暮らしの中にある日常品、家電や自動車、家や家具等、どれをとっても性能の重要性は当然ながら、そのデザインによって売り上げが大きく変わる現実は意外と認識されていない気がします。 企業でもその業績改革のために、デザイン力によって事業再生している事例が多くあります。日産自動車やかつてのアップルコンピューター、シャープなど名前を挙げればきりがありません。 またトヨタで有名なTQC(総合的品質管理)も、今から約百年前にドイツのバウハウス美術研究所で生まれた、芸術理論によって体系化されたものが基本的な考え方になっているのです。 知らず知らずのうちに社会や経済の中に深くかかわっているアートの考え方は特殊なことではなく、その時代に多くの功績を残した偉大な経済人たちが重要視したように、現代社会において産業や経営の最も重要な鍵になっていることを理解するべきなのだろうと思います。 冒頭の直島の活動も二十年前に始めたころは、「成り金の道楽」とか「物好きな変わり者」とか中傷されたそうです。 しかし今や毎年十六万人の人が国内外から直島を訪れ、かつての過疎化が進む島は世界的に注目される、活気ある魅力的な島となり、島民の暮らしも一変しているのです。 群馬にもこんな志の高い、歴史に名を刻むような、奇特な経済人が現れないものでしょうか。 (上毛新聞 2006年12月27日掲載) |