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共愛学園前橋国際大国際社会学部長 大森 昭生さん(前橋市駒形町)

【略歴】宮城県出身。東北学院大大学院博士課程在籍中の1996年に共愛学園入職。2003年から現職。県男女共同参画推進委員、前橋市社会教育委員などを務める。

父親たちの悩み

◎子育てができる環境を

 ある晴れた土曜日、三歳と一歳の子どもを連れて近くの公園に出かけました。まだ早い時間だというのに、もう三組ほどの親子が遊んでいました。少しして、あることに気が付きました。どの家族もお父さんと子どもたちの組み合わせなのです。私も含めて四人の父親が、子どもたちを励ましたり、優しく見守ってみたりと、それぞれのやり方で子どもとの時を過ごしている光景に、つい見とれてしまいました。

 そういえば、保育園の親子遠足のときもお父さんがたくさん来ていたし、運動会の親子競技では私のグループはお父さんばかりでした。保健センターの健診でもお父さんの姿を想像以上に見かけます。「子育てをしない男を父親と呼ばない」という国のポスターがありましたが、こうしてみると、ずいぶん子どもとかかわっているお父さんが増えてきたように感じられます。

 ところが、例えば男性の育児休業取得率は年々上昇傾向にあるものの、現在0・5%で、国の目標である10%にはほど遠い数値です。育児時間を国際比較している各種調査からも、日本の父親は他国と比べて子育ての時間が短いという現状が見えてきます。ということは、私が出会ったのはごく一部の人たちで、まだまだ父親たちの意識は子育てに向かっていない、ということなのでしょうか。しかし、そうとも言い切れないようなのです。

 最近、国立女性教育会館の国際比較調査から、四割もの父親が子どもと接する時間が短いことに悩んでいる、という結果が報告されました。栃木県が子育て世代を対象に実施した父親の育児に関する意識調査でも、半数以上の男性が「父親も積極的に育児すべき」と答え、同じく半数以上が「子育てと両立できる働き方」を理想としています。ところが、実態は八割以上が「仕事優先の働き方」だというのです。つまり、今のお父さんたちは育児にかかわりたいと思っているのに、実際それができないので悩んでいるという状況にあるのです。

 「私」が生きたいと思う生き方が選択できないという社会は、本当に豊かな社会といえるでしょうか。子どもとの貴重な時間を一緒に過ごしたいのに、それがかなわないのはとても残念なことです。私は二人目の誕生を機に育児休業を取得しました。子どもとの時間が私に与えてくれるものは計り知れません。もちろん、休業だけが育児ではありません。それぞれのやり方で子育てを共有しているお父さんたちは、子どもとの時間について、人生を豊かにしてくれるものであり、自分も成長することができるという感想を持つようです。

 今、父親たちが自分の思いを大切にしながら子育てを共有できる社会環境の整備が望まれているといえるでしょう。

 父親の子育ての共有は、子育ての孤立や少子化などの社会的課題にとっても、企業等の体力づくりや業績にとっても良い影響を与えてくれるといわれています。次回は、社会とのかかわりの中から、父親の子育ての効果や課題について考えてみたいと思います。






(上毛新聞 2006年12月14日掲載)