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草津温泉フットボールクラブ取締役 鳥谷部 史さん(東京都大田区 )

【略歴】慶応大経済学部卒。野村総合研究所でコンサルティング事業本部事業企画室長などを歴任。現在は同本部経営コンサルティング部長も務める。東京都生まれ。

大西リポート

◎明確に示された道標

 いま、目の前に三通のリポートが置いてある。いずれも二〇〇一年末から翌年一月に作成されている。「リエゾン草津FC再構築のための提案書」と題されたザスパ草津の原典である。そこには、地域に根差し、地域に愛され、地域のために活動し、チームをはぐくむというザスパ草津創設以来の理念・ビジョンが明確にしたためられている。これを一から書き上げられ、私たちが誰よりも慕ってやまない大西忠生さんが、今年六月二十九日に急逝された。しかし、この中には大西イズムが生き生きと満ちあふれている。

 本欄の執筆をお受けしたのは、本県初のプロスポーツ企業であるザスパ草津を経営戦略や地域開発の事業に携わってきた視点から解題し、県民の皆さんにご紹介したいということ以上に、一年間をかけて、この大西イズムを正しく記しておくことが、この四年間、特に最後の一年間は寸分の意見も違わなかった私の責務と感じたからである。

 さて、本題の大西リポートである。多くの企業が、創業の理念や企業ビジョンを持っている。企業はその理念やビジョンに基づいて戦略を構築し、経営資源を配置している。これを最大限に活用しながら、外部資源を得て企業活動を展開していく。だからこそ、その理念、ビジョンを企業内に浸透させることは経営者の第一の責務であり、それができている企業は極めて強い企業である。

 しかし、それを実現している企業は必ずしも多くない。あえて言えば、少ない。例えば、会社勤めの方は、自分の会社の理念、ビジョンをすらすら言えるだろうか。ましてや、よその会社の理念になると、有名企業、たとえトヨタであっても、それを知ち悉しつしている人はわずかであろう。

 ところが、ザスパ草津の基本理念は、正確にはともかく、サポーターさまやスポンサーさま、自治体殿や選手・スタッフ、役職員のすべてが認識している。「『温泉と高原、文化とスポーツ』の町、草津町を発信源に、スポーツを通じて『夢と活力』を与える」である。大西リポートには、既に基本理念としてこれが掲げられ、そしてさらに、コンセプトとして以下のような言葉がちりばめられている。「総合的なスポーツクラブ」「地域住民のスポーツ参加」「地域の人たちと積極的に交流」「サッカーの底辺拡大」「一個人や一企業によらない三位一体(行政・住民・企業)の取り組み」「草津町そして群馬県を代表する地域住民が誇りにできるクラブ」「日本を代表するチームや選手」「地域の活性化」。これらの珠玉の言葉に、今後のザスパが目指す道標が明確に示されている。

 確かに、ザスパ草津は、三年でJリーグ昇格という夢の目標を実現した。しかし、まだ道半ばでしかない。大西さんが最も大事としていたコンセプト「地域の人たち(特に子供たち)に『夢と活力』を与えるとともに、子供たちの『目標』となる」を含めて。






(上毛新聞 2006年11月26日掲載)